マフィアだということ
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リボーンは獄寺の墓に花を一輪だけ置いて、少しだけ過去を振り返った。

それはある日の夜のこと。いつも通り、話をするだけの夜。

それでも獄寺は楽しそうだった。けれど少しだけ影が入っていた。


「オレは…欠陥品、なんですよ?」


恐る恐るそう言う獄寺は見捨てられることを覚悟していた。

けれどそれでも構わないと。獄寺はそう思っていた。欠陥品を愛人に持ってることでリボーンの名に傷が付くぐらいならと。

しかしそれこそ、リボーンにとっては本当に何の問題もなかった。あるはずがなかった。何故なら―――


(―――やはり、何の感情も見受けられねぇか)


獄寺が後天的な欠陥品というのなら。リボーンは先天的な欠陥品だった。

生まれつき、浮き上がる感情が薄い。…特に失うものに対する感情に至ってはゼロといってもよかった。

だから愛人を何人作っても何の問題もなかった。死んでも何も思わないのだから、仕事にミスはない。


―――けれど、獄寺は。獄寺だけは……


リボーンがほんの少しだけ。失いたくないと思えた人物だった。

けれど自分が近付くと弱い彼はたちまち逆恨みの対象となってしまって、殺されてしまうだろうから。

だからリボーンはずっと素っ気無い対応を取ってきた。リボーンにとって獄寺隼人という人物は重要視されてないというように。

だから、ある日リボーンが獄寺を愛人に誘ったのは本当に気紛れだった。

断ると思った。いつだって冷たい対応をしていたのだから、応じるはずがないと。

でも、話を聞いた獄寺は―――驚いて…そして微笑んで、言ったのだ。


「オレなんかでよろしければ―――喜んで」


―――本当は。リボーンは獄寺を愛したかった。

これでもかというほど愛で包んで。甘やかして。自分以外を考えられなくさせてしまいたかった。

けれどそれは出来なかった。そうしたとしたらあっという間に獄寺は殺されてしまう。


―――どちらにしろ、殺されてしまったのだが。


リボーンは帽子を深く被った。そして思い出の時を少し流す。

それはある日の食事会。いつものように素っ気無い態度を取っていた。

けれど獄寺は笑っていた。いつだってその微笑を絶えなかった。


「オレはぜーんぶ分かってるんです。その上で言ってるんです。ですから貴方は、何も思い悩まないで下さいね」


全部。それは本当に全部だった。

リボーンは結局最後はツナを取らねばならないということ。好きなように愛せないということ。

あまりにも構うと要らぬ逆恨みの対象とされかねないから、だからわざと素っ気無い対応をしているということ。

獄寺は全てを悟っていた。分かっていた。リボーンは読心術でそのことが分かった。

…けれど。獄寺はそれに少しだけの不安を持っていた。

分かっているといつも言っていたが―――…そして実際に分かっていたのだが。それには何の確証もなかった。

もしかしたらそれは自分の勝手な思い込みなのかもしれないという暗い考えがいつだって獄寺の頭から離れることはなかった。

思う。もしも一度だけでも、あの頭をくしゃっと撫でながらそうだなと肯定出来たなら。あるいは幸せに出来なくてすまないと謝罪出来たなら。

とにかく一度だけでも、その意図を汲み取ってそれは合っていると言えたなら。今と少しだけでも違った、…救いのある結末になったのだろうか。

―――でもそれはもう考えても仕方のないことだ。死者の事など考えても意味はない。

リボーンは暫しの黙祷をして、そうして墓に眠る獄寺に何の一言も掛ける事無くその場を後にして。


そうして二度と、獄寺の元へと訪れることはなかった。


リボーンは誰にもこのときの話をしていない。だから誰もこの事実を知るはずもなく。

故に、リボーンが獄寺に黙祷をしたときの彼の心情を――

…一人の獄寺の愛人として思った、人間らしい心情を理解し、そして知る者は誰一人としているはずもなかった。


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ただ愛したかったのに。それすら許されえぬこの所業。