マフィアだということ
4ページ/全13ページ


「リボーン」

「ん?」


ツナが獄寺に噂の真偽を確かめてから数日後。

ツナはリボーンにも聞いてみた。


「…獄寺くんを愛人にしたんだって?」

「ああ。それがなんだ?」


当事者二人にあっさりと肯定されてツナは泣きたくなった。


「――オレが獄寺くんのこと好きだって知ってるくせに…」


少し恨みがましく言ってくるツナに、しかしリボーンはいつも通りの無表情で。


「さっさと告らねぇお前が悪いんだろうが。欲しいものは奪え。それがマフィアだ」


仮にも自分の愛人の話だというのに随分な言い様だとツナは思った。あと本気で獄寺を奪おうかとも。


「…その方がいいかもな」

「―――え?」


てっきり「出来るものなら」とか「お前には無理だ」系の言葉が出てくると思ってたツナは驚いた。そして怒りが湧いた。


「リボーン!なんだよその言い方!」



―――――あの時。



ツナが半分冗談、半分本気での台詞を言ったとき…獄寺は困ったような考え込むような、複雑な顔をした。

でもすぐにまた笑顔に戻って。…その笑顔は場違いなほどに幸せそうで。

ああ、と。このときツナは悟った。獄寺は本当に―――リボーンのことが好きなんだろうと。

きっとツナの問いに獄寺はリボーンの事を考えたのだとツナは思った。

そして考えるだけでこんなにも幸せそうな顔になるのだから。きっと獄寺はリボーンのことが好きなのだろうと、そんな結論に至った。

獄寺が幸せなのならツナは身を引こうと思った。…というか、どう足掻いても今の獄寺を振り向かせる自信がなかった。

幼き頃より大変な目にあってた獄寺だから。その獄寺が幸せになってくれるのなら。ツナはむしろ応援しようとすらした。

…けれど。なんで当事者の一人であるリボーンがこんなにも素っ気無いのか。ああもう何故獄寺くんはオレよりもこんな奴を――…


「あのねリボーン。一応言っておくけど、獄寺くんはきっと本気でリボーンのことが…」

「んなわけねぇだろ」

「な…!?」


台詞の途中でまさかの否定。リボーンの表情は読めない。


「獄寺はオレの数多い愛人の中の一人だ。その程度の愛情しか与えてねぇ。そしてそれは獄寺も知ってるし、受け入れている」


「でも、たとえそうだとしても、獄寺くんは…!」

「話はそれだけか?…まったく、無駄な時間を過ごした。―――獄寺。入ってきていいぞ」

「…え?」


再度ツナの台詞を遮るリボーンに不満を覚える間もなく。気不味そうな獄寺がおずおずと入ってきた。


「獄寺くん…?なんで……ここに?」

「今日は獄寺と飯喰う約束があってな。悪い獄寺。時間を過ぎたな」

「いえ、それは構わないのですけど…」

「ご、獄寺くん…話聞いてた?」


ツナの問いに獄寺はすいませんと答えた。ばっちり聞かれていたようだ。


「その…ど、どこから?」

「リボーンさんがそれがなんだって言った辺りからです…」


ぐぁ…っとツナは思わず頭を抱えた。芽生えてもう10年にもなる想いがこんな形で伝わるなんて。


「ツナの百面相なんて珍しいな。ここ数年見せなかったのに」


それほどのことなんだよ、とツナは内心毒付いた。いや、獄寺くんの気配に気付かなかったオレにも責任は…ごにょごにょ。


「さて。そろそろ行くか。獄寺」

「あ、はい」


二人揃って部屋を出て行こうとして。けれど獄寺は不意に足を止める。

…その手を、ツナに掴まれたから。


「10代目?」


きょとん顔で見上げてくる獄寺に、ツナは申し訳無さそうに。


「ごめんリボーン。少しの間だけ獄寺くん貸して。いや、デートを邪魔するつもりはないんだけどさ…とにかくお願い。お詫びはするから」

「10代目。頭下げすぎです」

「別に構わん。じゃあ獄寺。オレは先に行ってるから」

「あ、はい」


思ったよりもあっさりと身を引いたリボーンにツナは毒気を抜かれてしまう。扉が閉じられて部屋の中にはツナと獄寺二人きり。