マフィアだということ
9ページ/全13ページ


「10代目。最近気を抜きすぎではありませんか?」

「ん…そうかな」


ある日。ツナが獄寺とリボーンとで移動していた時。獄寺が不意に口を開いた。


「まあオレの両隣には心強いコンビがいるからね。いや、コンビというよりもカップル?」

「お前まだオレが獄寺取ったこと根に持ってるのか?」


呆れたようなリボーン。しかし食べ物と恋の恨みは怖いものなのだ。きっと。


「いえいえ。思う存分いちゃつき下さい。もうオレのことなんて忘れてー…ごめんやっぱりやめて」


どうやら想像して泣きたくなったらしいツナ。しかし今はオフィス内ではなく外で。やはり獄寺が言ったように気が抜けてるような気もする。


「もう、そんなのでは駄目ですよ10代目。もっとしゃんとして下さい」


いつもと少し違う、少し強い口調の獄寺。横でリボーンが笑ってる。獄寺も言うこと言うようになったなと。


「この面子で襲い掛かろうなんて思う奴、いないよ」

「そうかも知れません。けれど、そう思うことに付け込まれるんです」

「まぁな。けど、ツナには理解出来ねぇだろ。あまり無理言うな獄寺」


リボーンのツナにとっては思わぬ助け船で獄寺も引き下がる。まぁそうかもですけど。

しかしツナとしてはそれは面白くない。何故に愛しい人に怒られて恋敵に助けられなければならないのか。


「何だよそれ。どういうことさ」


簡単なことです。と獄寺が答える。続いてリボーンも。


「貴方はオレたちの、マフィアのボスで」

「そして元一般人だ。オレたちの考えなんてお前には理解出来ねぇよ」


それがまるで申し合わせたかのようにぴったりだったから。ツナは少し怯んでしまう。


「な…なんだよそれ!」

「でもそれでもいいとオレは思います。…今回みたいに気を抜かなければ」

「え―――獄寺く」


と、そこで三者は三様にその場から飛び退いた。一瞬遅れて銃弾が飛んでくる。

な―――んだよこれ、とツナは毒付く。敵の接近にまったく気付かなかった。

ああ、とツナは理解した。最近気を抜きすぎだとついさっき獄寺に窘められたばかりだ。ああもうまったくその通りだ。

リボーンと獄寺は慣れた手付きで敵を屠っていく。突然のことなのに、まるで予め決めていたかのように背中合わせで倒していく。

ツナもツナで銃を構える。長年に渡って教え込まれたマフィアとしての行動は身体が既に覚えて勝手に行動してくれた。


しかし―――敵の数が多い。


そりゃあ相手はボンゴレ10代目と、最強のヒットマンリボーンと。そして10代目の右腕でありリボーンの愛人である獄寺なのだから半端な実力者では到底歯が立たないだろうけど。

相手をいなし切れない。敵を撃ちながらも後手に回ってしまう。…焦りが生じる。

と、ツナがらしくもなくミスをしてしまう。そしてそのミスは戦場では命取りとなる。

10代目の命を狙いに敵が一人やって来た。一撃は喰らってしまう。しかしその時ツナは獄寺を見ていた。彼は二人同時に相手にしていて。…いけない、背ががら空きだ。

リボーン、とツナはアイコンタクトを送る。彼を、獄寺くんを助けろ。敵を撃て。

自分も目の前の奴の攻撃を喰らってしまうだろうけど。でも死ぬほどではない。腕の一本ぐらいは覚悟しないといけないだろうだが。

けれどこれは自業自得だ。気を抜いてしまった駄賃として潔く受け入れよう。でも獄寺は今助けないと駄目だ。致命傷になってしまう。

だからツナはリボーンを見た。彼を助けろと。自らも獄寺の支援をしながら。

―――そしてリボーンは、


タァァアアアンッ


一瞬の刹那のあと、その銃口を敵に向けて…撃ち抜いた。

どさっと、ツナの目前まで来ていた奴が崩れ落ちる。リボーンが撃ったのは獄寺を狙っていた奴ではなく。ツナを今まさに攻撃しようとしていた奴だった。


「な――――」


そして、その隙を奴らが逃すはずもなく。

獄寺は敵の攻撃を喰らい、その身体から血の雨を降らせた。

何故、どうして。ツナの体温が下がる。寒くて、凍えそうになる。

けれどツナの身体は止まらない。血の臭いに敏感になってしまったのか、ますます感覚が研ぎ澄まされる。次々と敵を討つ。

リボーンは血を流す獄寺をまったく気にした様子もなく敵を撃ち殺している。表情は読めない。

獄寺は止まる気配のない血を噴き出しながら、それでも無様に倒れることもなく攻撃を続けていた。まるでその流れている血が嘘みたいに。


…やがて敵は全て倒れて。その場に沈黙が流れる。動くものがいなくなる。