守れなかった約束
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「え?」
「なんていう映画だって聞いてんだよ!見に行くとき分かってないと不便だろうが!!」
「………隼人」
「シャマルがはまったっていうのに、少し興味が湧いただけだからな!!」
「ああ、ああ。そうだな。いつ行こうか。何なら今すぐにでもいいんだが」
「あー…オレの方が任務があるからなー……少ししたらでかい抗争があるんだ。それのあとな」
その日。オレたちは映画に行く約束を取り付けて。それから別れた。
―――でも。オレは忘れていたんだ。ある意味、こいつらの仕事ってのを誰よりも知っていたのに。
オレは………忘れていたんだ。マフィアってものを。
「Dr.シャマル!急患です!!」
―――まったくお前は。いつになっても無茶しやがる。
閉じた扉を見ながら、オレは適当に煙草を取り出し、煙を吸った。
目を瞑り、煙を吐くと、まだ城にいた頃を思い出す。
――お前の言った通り、もう年なのかもな。
いつだって。お前はオレに、着いてきて。
先生!シャマル先生!!
はいはい。何かねお坊ちゃま。
先生は今、ニホンエイガが好きなんですよね!
んー…まぁ、そうだな。
僕も見たいです。シャマル先生と一緒に見たいです!!
あー……と、じゃあ今度な。
約束です!約束!!
ああ…約束だ。
はい!約束です!………シャマル先生――
……ん?
―――ありがとう。
約束を破ったのは、オレ。
気が付くと。オレはお前を探してて。
でも。オレがようやくお前に興味を持ったときには、お前はすっかり可愛気がなくなっちまっていて。
―――中々両想いには、なれねぇなぁ。
恋の百戦錬磨のこのオレが、たった一人のガキにこれでもかというほど振り回されるなんて。
「う……」
―――と、重症患者が目を覚ました。
「お目覚めかい?お姫様?」
「……シャマル?…そっか。オレ、またあんたの世話になっちまったのか……」
「そう思うのなら少しは自制してくれ。こんな戦い方じゃ命がいくつあっても足りやしない」
「…わりぃな」
「ま、いいけどな。その分お前に思う存分、お触り出来たし」
「……わりぃ。シャマル」
「……隼人?」
隼人は、申し訳なさそうな顔で、笑って。
「映画…行けなくて、わりぃな。シャマル…」
―――時が、止まった。
「………あ、ああ、気にするな。また時間を作って――」
「……シャマル」
「なに、怪我なんてオレの手に掛かればあっという間に治る。いいか?あっという間だぞ?」
「――シャマル」
「そうだ。これを機に休みを貰おう。お前は働きすぎなんだ。少し休めば―――」
「シャマル!!」
「………っ」
「……分かってんだろ?」
「何をだ?」
「―――オレはもう、長くないって」
「馬鹿なこと、言うな。…医者が治るって言ったら治るんだよ!」
「……オレは医者じゃないけど、自分の身体の事ぐらい、分かる」
「―――っ」
「シャマル。オレに痛み止めを」
「な…っ馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!」
「シャマル。オレはもう長くない。だったら……」
「隼人、そんなこと言うな。オレが絶対治してやるから…!」
「―――シャマル」
隼人は。少し困ったようにオレを見上げて。
「頼むよ」
なんて。そんなことを言って。
「………馬鹿野郎が」
「シャマル……」
「――とびっきりのを、打ってやる…精々、派手に散ってこい」
「………すまねぇな。シャマル」
「けっ。これで生きて帰って来てみろ。オレが殺してやるよ」
「おお怖えぇ」
隼人は笑った。これから死にに行くってのに、朗らかに笑っていた。
「…ほら。出来た。―――行けよ。隼人」
「ああ。………シャマル」
「ん?」
「―――――ありがとう」
ばたん。
その扉が閉まったあと、オレはあの頃の隼人を思い出し、あの頃と何も変わっちゃいない隼人を想い―――
―――――独り、泣いた。
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じゃあな、馬鹿野郎。
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