思えばそれが不幸の始まり
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その日。獄寺は休日だった。
どう過ごそうかと考えながら獄寺は通路を歩く。…ぶっちゃけ朝起きるまで休暇であることを忘れていた為になんの予定も立ててなかったのだ。
そんな獄寺の耳に。
「あっれ?姫じゃん」
なんともむかつく声が、不可解な名称で獄寺を呼んできた。
「…気違い王子か。この辺りに女はいねーぞ。ヤクにでも手を出したのか?」
開口一番からの毒舌っぷり。しかし気違いとまで言われた相手…ヴァリアーのベルフェゴールことベルは本当に気にした様子はなく笑っている。
「うっししし。姫ってのはあんたのことだからいいんだよ。王子の相手は姫って王道っしょ」
意味が分からない。
獄寺は盛大にため息を吐き…歩き出す。せっかくの休日なのにこんな奴相手に潰したくはない。
「おっと待てって姫ちゃん。暇ならオレと遊ぼうぜ?」
「お前の相手をするぐらいなら部屋に戻って寝た方がましだ」
朝からいきなり疲れる相手に見つかってしまったものだ。日頃の行いは確かにいいものではないが。
獄寺がどうベルを撒こうかと思案していると、少し離れたところから聞きなれた声が届いた。
「あれ?スモーキンじゃねーか。何してんだ?」
それはキャバッローネの跳ね馬のディーノだった。獄寺はまた変なのに見つかったとうんざりした表情を出した。
「…人見てその顔は酷くね?」
「いや、正常な反応だね。何故なら姫は今からオレとデートするからだ!!」
「な、なにぃ!?」
「………」
高らかにそう宣言するベルと驚くディーノ。そして呆れる獄寺。
一体いつそのようなスケジュールが組まれたというのだろう。少なくとも獄寺は聞いた覚えも承諾した覚えもない。
「ていうか…姫?スモーキンを姫だと…?」
ディーノの身体がふるふる震えている。よく分からないがその呼び名を否定してくれるのならばありがたい。獄寺はそう思った。だが…
「その呼び名ナイス!!!」
現実は…無情の一言に尽きた。
「…はぁ?」
獄寺が疑問の言葉を上げるも当事者二人の耳にはまったく届いてないようで。
「姫…姫かぁ…いいよな姫は!何だか守ってあげたくなるような響きだしそれにか弱いスモーキンにはぴったりだ!!」
「待てや」
全身全霊を込めて獄寺はストップをかけた。
姫の名称が良いか悪いかは百歩譲ってこの際置いておくとする。
その名称が守ってあげたくなるのかどうかも千歩譲って置いておくとする。
だが…それが自分にぴったりとは一体どういう意味だ?
しかも仮にも10代目の右腕を張っている自分に向かってか弱い?
血管がぶち切れそうになるのを感じながら獄寺は貼り付けた笑みを浮かべて懐のダイナマイトに手を掛けた。
しかしそれに水を掛けるような乱入者が現れた。更に言うなら事態をややこしくもしてきた。
「珍しいトリオだな。なんだこれ」
現れたのは幼少期の獄寺と過ごしてきた時間の最も多いと思われる人物。表では医者、裏では殺し屋の顔を持つ伝説の暗殺者シャマル。
しかし獄寺にとってはそんな異名はなんの関係もなく、自分を母体から取り上げた人物であり、父代わりであり兄代わりであり。…そして医者で。師だ。
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