瞑られた眼は まるで
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「…?10代目?」

「眼、開けないで」

「は、はい」


いきなりの命に、獄寺は素直に従う。ツナは一歩、また一歩と近付いていく。

やがてツナは獄寺の眼と鼻の先に来て。獄寺もそれが気配で分かるのかけれど眼は瞑ったまま。戸惑ったようにツナを見上げて。


ぎゅ…っ


ツナは獄寺を包み込むように抱きしめた。


「え…、10、代目?」


流石に眼を開けてツナを見上げる獄寺。ツナは困ったように笑って。


「なんかね…眼、瞑ってる獄寺くん見てたら抱きしめたくなった」


そう言っては、抱きしめる力を強めた。獄寺は緊張しているのか、身を強張らせて。それに気付いたツナは困ったようにまた笑って。


「―――迷惑、かな?」

「い、いえっとんでも…ただ……」


獄寺は俯いて。小さな声で。一言、恥ずかしいですなんて言って。


「くぁー…っ、獄寺くん可愛いーっ」


ツナはそんな獄寺をさらにぎゅっと抱きしめて。…でも。ツナの表情は少し暗かった。

―――無数のダイナマイトに囲まれて、眼を瞑る獄寺は。ツナにある幻想を抱かせた。


…まるで、墓の中で眠る、死人のようだと。


けれど動き続けるその手が、死してなおツナを護るために働き続けているようで。

そんな幻想を抱いたツナは、怖くなった。

自分はマフィアになる気なんてないけど。でも、彼とずっと一緒にいるためには、その道も考えなくてはいけなくて。

―――そうなったら…その道を選んだら。ツナはマフィアの、ボンゴレのボスになる。

マフィアなんて怖いイメージしかないツナには、その道を選ぶのには勇気のいる事だ。

…マフィアになるということは、きっと命の危険も出るのだろう。

そうなったら、彼は、獄寺は。ツナの命を護るよう動くのだろう。


それが、ツナには怖かった。


自分が死ぬのも。そしてもちろん、彼が、獄寺が死ぬのも。ツナは怖かった。

けど…獄寺はもう既にマフィアで。自分が彼と同じ道を選ばなくとも、そんな世界に身を置いていることには変わりなくて。

…ならば。自分はどうすればいいのだろうか。何が最良の選択になるのだろうか。

ツナは最近そんなことばかりを考えて。そして―――どうしようもなく、不安になる。

―――それを、察知したのだろうか。


「10代目」


気付けば、獄寺はツナを見上げていて。その顔は笑みに彩られていて。


「大丈夫ですよ」


そう言っては、ツナをぎゅっと抱き返して。

たったそれだけなの事なのに、ツナは安心してしまう。悩むのが馬鹿馬鹿しくなる。


(オレがなんで悩んでいるのか、分かってないくせに…)


けれど、とツナは思う。


(オレ、きっともう獄寺くんから離れられない…)


ならば。だったら。自分はマフィアに、ボンゴレの10代目になるしかないのだろう。…けれど。


(そうなったら、オレは毎日毎日獄寺くんの安否を心配する羽目になるのか…)


それは、思っただけで気が狂いそうだと。ツナは思った。


「…獄寺くん」


だから、ツナは願う。彼の名を呟いて。


「はい」


獄寺は受け応える。その意味を知らず。


「獄寺くん」


もう一度言う。彼の名を。願いを込めて。


「はい」


獄寺はまた応える。その意味を理解せず。


「獄寺くん…」


ツナは言う。彼の名を。たった一つの願いと共に。


―――死なないで。なんて。


そんな決して本人には言えないような、願いを込めて。


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お願いだから、死なないで。