深く出来た溝の埋め方
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「突然の訪問であるにも関わらずお会いして下さり光栄です。ボンゴレファミリー10代目沢田綱吉さん。あいにく教養がないもので、無作法があってもどうかご容赦願います」

「いえいえ。うちのリボーンが世話になった方を無下に追い出すようなことは出来ません。オレからも是非お礼を言いたかったですし」


実際には、リボーンは何も言っていない。

だが、獄寺の名が出てぴくりと動いたリボーンの反応を見て、ツナは大体を察した。そして、獄寺をここまで通した。

リボーンは黙って獄寺を見ている。

マーモンも黙っているが…その目は険しい。

獄寺はその目にも怯むことなく、逆に見据えてみせる。


「その節はどうも」

「一体何の用?リボーンを助けたことをネタに金でもせびりに来た?こっちは頼んでもないのを勝手に助けたくせに、これだから卑しいスラムの女は」

「おい、マーモン」


流石にリボーンが窘める。しかしそれはマーモンの機嫌を更に歪ませるだけだった。


「部下の躾が出来てなくて申し訳ない。あとできつく言っておくのでご容赦を。…それで獄寺さん。話の前にひとつ聞きたいことが」

「なんでしょう」


ツナの目が鋭くなる。


「どうしてこの場所が?ここを知る人間は限られているのですが…まさかリボーンが?」

「そうだよ怪しい奴。それに、人と話をする時は顔を出すものだよ。なのにフードなんて被って顔を隠して。真面目に話する気あるの?」


お前だけはそれを言うな。


今、三人の心がひとつになった。

しかし獄寺はそんな心の声を欠片も表に出さず、


「…そうですね。すみません、自宅以外はいつもこうしているもので」


そう言いながら、獄寺はフードに手を掛けた。

現れたのは、リボーンには見慣れた獄寺の顔。

しかしツナとマーモンは同時に息を呑んでいた。


「これでよろしいでしょうか。それで…ええと、どうしてここがボンゴレファミリーのアジトだと分かったか、でしたっけ。それは…」

「いや、もういい。もう分かったよ。そうか…キミが自らリボーンを匿っていたのなら、ここまでリボーンの発見に遅れたのにも納得がいく」


どうやら獄寺を知っているらしいツナに、リボーンは疑問を覚える。獄寺はそんなに有名な奴なのだろうか。


「おい、マーモン。獄寺って何なんだ?」

「…あのスラム街にいる銀髪碧眼の女といえば、街全てのことを知っているという情報屋のことを指すんだよ。僕もあの日会う約束をしてたんだけど、まさか彼女だったなんて…」


情報屋。その言葉を聞いた獄寺は顔をしかめていたのをリボーンは思い出した。

色々複雑な思いを抱いていたようだが…なるほど、こういう理由だったのか。


「別に、オレはあの街全てのことを知ってはいませんし…そもそも、オレは自分を情報屋なんて思っちゃいませんよ」

「盗み聞きしないでよ」

「すまないな。オレは耳がいいんだ」

「情報屋じゃないなら、どうしてこの場所を特定出来たんですか?」

「なんてことはありません。ただ、人に聞いただけですよ」

「…人に……聞いた?」

「ええ」


あっさりと答える獄寺。


「知りたいことがある時、ちょっとだけ愛想よくして周りに聞くんです。あとは…日頃の行いがよければ、向こうから来てくれます」


人の口に戸は立てられぬ。たとえボンゴレの人間がガードを固めていても、その家族、恋人、親友。心許せる相手は誰にでもいる。

話は聞けずとも、たとえばどこかで見かけたり。噂話を聞いたり。店からは商品の納付先だって知れる。

そういった情報を集め、纏め。答えを導き出すのが獄寺だった。


「なるほどね…」

「でもこれにも限界がありまして。誰も知らない情報は当然掴めないんですよね。ですからリボーンさんがボンゴレの人間だとは分かりませんでした」


拳銃を持っていたことから、リボーンが堅気でないことは分かっていた。

情報を集めた結果、リボーンが現れてから街のごろつきが少しずつ消えていったことも分かった。

リボーンを目撃した数少ない人間の証言によると、現れる時間はいつも夜。目付きは鋭く立ち振る舞いに隙はなく。すぐに闇夜に溶けて消えたらしい。

誰も見たことのない少年の暗殺者。

どこの人間か分からず、リボーンを匿いながらも獄寺は四苦八苦していたらしい。