深く出来た溝の埋め方
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元よりリボーンは感情の起伏が希薄だ。

殺しだろうが拷問だろうが、淡々とこなし、終わらせる。

そこに嫌悪の感情はないが…その逆もまたない。生き甲斐などと感じたこともない。


「それなのに…周りの人間がそれを止めず、それどころか押し付けるなんて!これが大人のやることか!!」


獄寺に睨め付けられ、怒鳴られ、しかもその内容が正論であるため言い返せず、ツナはその身を縮こまらせる。


「す、すみません!!」


これがボンゴレ10代目の姿でいいのか。という光景ではあるが、これはツナが情けないのではなくそれほどまでに獄寺の気魄が恐ろしく、怖かったのだ。

その様子をぽかーんとしながら見ているリボーン。

あんなに優しい獄寺が、恐ろしい形相でツナに怒鳴り込んでいる。

獄寺が一体何に対して腹を立てているのか、リボーンには分からない。


「…で、キミはリボーンをどうしたいの」


呆れたような声を出したのはマーモンだ。その目は冷たい。


「アルコバレーノを辞めさせたいの?それともこの仕事そのものから足を洗ってほしいの?」

「オレにはリボーンさんの行く道を決める権利はない。リボーンさんの道はリボーンさんが決めればいい。今の道がいいならこのまま進めばいい」

「進んでるじゃないか。一体何を怒ってるんだい」

「リボーンさんが他の道を知らず、また他の道を見る目を奪われている現状に腹を立ててるんだ!!」


恐らくは…いや、間違いなくリボーンには才能があったのだろう。裏社会で生きていくための才能が。

そして周りはその才能を褒め称え、伸ばすことのみに専念した。人を殺す道具を与え、人を殺す場所を与え、そして疑問を覚える隙間を与えなかった。

その結果が今の…機械のように正確に人を殺し、人形のように無表情なリボーンである。


「…獄寺。気持ちは有り難いが、オレはこの道以外では生きていけない。だから…」

「…本当に、そう思いますか?」

「……?」


獄寺がリボーンに笑みを向ける。リボーンの記憶がないとき、あの家で、獄寺がいつも浮かべていたあの笑顔だ。


「オレと暮らしていたときのリボーンさんは、リボーンさんが未だかつてない生活だったと推測しますが」

「あれは…記憶がなかったからで……」

「記憶がなくて出来たことが、記憶があって出来ないとはオレは思いません」

「だが……」

「それとも…オレとの生活は楽しくありませんでしたか?嫌で嫌で仕方がありませんでしたか?殺しの方が楽しかったですか?」

「………」


無言のリボーンが告げる答えは、否定。


「リボーンさんは今まで歩んできた道以外の、別の道をひとつ知りました。他にも色んな道があります。オレは、リボーンさんに一番楽しいと思える道を歩んで頂きたいだけですよ」

「…まいったね。こりゃ」


ツナが降参とばかりにため息を吐く。ツナは鬼ではなく、非情でもない。あるいは…ツナも心のどこかでは気にかけていたのかもしれない。


「ちょっと、ツナ!?」


マーモンが慌てるが、ツナの心は揺らがない。


「確かに獄寺くんの言う通りだね。オレたちはあまりにもリボーンに頼りすぎた。オレたちはいつの間にか、リボーンを都合のいい道具のように使っていたのかもしれない」

「かもじゃなくて、そうなんだよ」


獄寺にまた睨み付けられ、ツナはまた謝った。威厳もへったくれもなかった。

しかしマーモンはなおも噛み付く。獄寺のような新参者にリボーンをさらわれてたまるものか。


「リボーンはボンゴレに必要な人材なんだよ。抜けられたら困るんだけど」

「子供一人抜けて困り果てるマフィアってどうなんだよ。どれだけリボーンさんに依存してるんだお前。自分で言ってて情けねえと思わねえの?」

「ぐ……」