深く出来た溝の埋め方
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少年が目を覚ますと、そこは暖かなベッドの上。
視界に入るのは少し汚れた天井、肌に感じるのは柔らかい陽射し。
近くにはストーブが置かれ、辺りの冷たい空気をその場だけ和らげていた。
少年はぼんやりとした頭で、身体を起こす。その時痛みを感じ、怪我を負っていることを知った。
その部位を手で触れてみると、白い包帯が巻かれていることに気付く。なんとなく、そこをさする。
そこへ。
「目が覚めましたか?」
若い女の声が聞こえた。そちらへ目を向ける。
最初に目が向いたのは、銀の髪。続いて、翠の眼。
珍しい色だ。と思っている内に女はどんどん近付いてくる。
「大丈夫ですか?」
「……お前は…」
「ああ、失礼しました。オレは獄寺。このスラム街に住んでます」
「スラム…街……」
「ええ。路地裏で倒れているあなたを見つけて、オレの家まで運んで…怪我をしているようでしたので手当をさせて頂きました」
「………」
少年はぼんやりとしながら聞いている。獄寺は更に声を掛ける。
「あなたの名前を、教えて頂いてもよろしいですか?」
「…リボーン……」
「リボーンさん。ですね。…リボーンさんは何故あそこにいたんですか?」
「なぜ…?」
聞かれて、初めて少年は気付いた。
自分の中に、名前以外の何もないことに。
「…わからない」
「…わからない?」
「オレは…誰だ……?」
「…それって…記憶がない…って、ことですか?」
「………」
無言で自分の手のひらを見つめる少年に、獄寺は優しく声を掛ける。
「…起きたてで、頭の中が混乱しているだけかも知れません。大丈夫です。オレはあなたの味方です」
「………」
「お腹空いてないですか?スープを作ったんです。持ってきますね」
獄寺はそう言って、退室した。
一人になり、リボーンは考える。自分のことを。
けれど何も思い出せない。
リボーンはベッド近くにある机の上に置かれた帽子が、自分のものであることすら分からなかった。
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