深く出来た溝の埋め方
2ページ/全17ページ


少年が目を覚ますと、そこは暖かなベッドの上。

視界に入るのは少し汚れた天井、肌に感じるのは柔らかい陽射し。

近くにはストーブが置かれ、辺りの冷たい空気をその場だけ和らげていた。

少年はぼんやりとした頭で、身体を起こす。その時痛みを感じ、怪我を負っていることを知った。

その部位を手で触れてみると、白い包帯が巻かれていることに気付く。なんとなく、そこをさする。

そこへ。


「目が覚めましたか?」


若い女の声が聞こえた。そちらへ目を向ける。

最初に目が向いたのは、銀の髪。続いて、翠の眼。

珍しい色だ。と思っている内に女はどんどん近付いてくる。


「大丈夫ですか?」

「……お前は…」

「ああ、失礼しました。オレは獄寺。このスラム街に住んでます」

「スラム…街……」

「ええ。路地裏で倒れているあなたを見つけて、オレの家まで運んで…怪我をしているようでしたので手当をさせて頂きました」

「………」


少年はぼんやりとしながら聞いている。獄寺は更に声を掛ける。


「あなたの名前を、教えて頂いてもよろしいですか?」


「…リボーン……」

「リボーンさん。ですね。…リボーンさんは何故あそこにいたんですか?」

「なぜ…?」


聞かれて、初めて少年は気付いた。

自分の中に、名前以外の何もないことに。


「…わからない」

「…わからない?」

「オレは…誰だ……?」

「…それって…記憶がない…って、ことですか?」

「………」


無言で自分の手のひらを見つめる少年に、獄寺は優しく声を掛ける。


「…起きたてで、頭の中が混乱しているだけかも知れません。大丈夫です。オレはあなたの味方です」

「………」

「お腹空いてないですか?スープを作ったんです。持ってきますね」


獄寺はそう言って、退室した。

一人になり、リボーンは考える。自分のことを。

けれど何も思い出せない。

リボーンはベッド近くにある机の上に置かれた帽子が、自分のものであることすら分からなかった。