深く出来た溝の埋め方
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「今日の帰りは夕方頃になると思います。昼食はシチューを作ってますので、それを」

「ああ…いつもすまない」

「いいえ」


獄寺は笑いながらそう言って、フードを目深に被り髪と目を隠す。獄寺は出掛けるときはいつもそうしている。


「面倒そうだな」

「え?…ああ、これですか。もう慣れっこなので、そう思ったことはありませんが」


聞く限り、ずっと昔…幼子の頃からそうしているらしい。なんでもその髪と目の色のせいでさらわれそうになった時があったとか。


「安全のためとはいえ、勿体無いな」

「え?」

「そんなに綺麗なのを隠すなんて」


素直に、さらりと紡いだその言葉。

それを聞いた獄寺は一瞬止まり…そして笑みを作った。


「まあ、リボーンさん。…オレを口説いてるつもりですか?」

「いや、そういうわけでは」

「でもごめんなさい。オレ、今のところあなたをそういう目で見ることは…」

「オレの話を聞け、獄寺」


告白してもいないのに振られるリボーンであった。


「でも」

「ん?」

「嬉しかったですよ。ありがとうございます」


小さな声でそう言って、獄寺はいってきますと部屋を出た。その後、玄関から出て行く音。


「……なんだ?あいつ、褒め慣れてないのか?…ん?」


ふと、リボーンが机の上を見ると獄寺の鞄が目に入った。出掛けるとき、いつも手にしているものだ。


「忘れていったのか…」


リボーンは呟き、身を起こす。

傷は未だ完治しておらず、身体が痛むがまったく動けぬというわけではない。

リボーンは覚束無く立ち上がり、鞄を手に取る。

獄寺は出掛けたばかりだ。今から追いかければ届けれるだろう。

リボーンはそう考え、家を出た。


リボーンは、記憶喪失故に忘れていた。

自分が、誰かに襲われた存在であることを。