深く出来た溝の埋め方
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辺りを見渡しても、獄寺の姿はどこにも見当たらない。

…意外なことに、褒められたことに照れて走っていってしまったようだ。

しかしそれで諦めるリボーンではなく、獄寺がどこに向かったかを適当に勘で決めると迷うことなくそちらへと走った。

リボーンも中々に凄い行動力だった。

けれどその先にいたのは獄寺ではなく。

今までの平和な日常を壊す、裏の世界の人間。


「おい、獄寺」

「…?」


リボーンが獄寺と思い、声を掛けた相手は別人だった。お互いに驚く。


「ああ、すまない人違いだ」


あっさりと謝り追い抜くリボーンに、声が掛けられる。


「り、リボーン!?」

「ん?」


名前を呼ばれ、リボーンが振り向く。相手――どうやら女のようだ――は狼狽していた。


「な、な、な…!!」

「…オレを知っているのか?」

「なに冗談言ってるんだよ!」

「すまないが、今のオレには記憶がないんでな」

「は…!?」

「お前はオレの知り合いか何かか?」

「………」


ローブに身を包む女は顔に手を当て重いため息を吐く。


「リボーンが死ぬとは思ってなかったけど…まさか、こんなことになってるなんて…情報屋に会う手間が省けたのはいいけど、こんなの……」


女はブツブツと呟き、またため息を吐くとリボーンの手首を掴む。


「ん?」

「帰るよ」

「帰る?」

「そう。仕事が馬鹿みたいに溜まってるんだから。…ああ、記憶がないんだっけ? まあアジトに戻ったら誰かがどうにかしてくれるでしょ…」


勝手に話を進める相手に、リボーンは待ったの声を掛ける。手には獄寺の鞄。


「待て。オレにはやることがある」

「やること…?」

「ああ。ごく…オレが世話になってる奴に忘れ物を届けなきゃならん。それにオレに帰る場所があるなら、あいつに挨拶をしたい」


当然とばかりにそう言うリボーンに、女は固まる。手首を掴む手が強ばる。


「リボーンがこんな…こんな、まるで人間みたいになってるなんて……」

「はあ?」


呟かれる言葉の意味が分からない。人間みたいもなにも、人間なのだが。


「いいかい?キミはね…」


女が手を離し、リボーンと向き合う。何かを告げようとして、そしてそこに乱入者が現れる。

それは…


「……リボーンさん?」


リボーンが追い掛けていた相手、獄寺。