深く出来た溝の埋め方
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獄寺が意識を取り戻したのは、リボーンの手当が終わって少ししてからだった。
「…ん……」
「獄寺…?獄寺!!」
必死な声が聞こえてそちらを見れば、今にも泣き出しそうな顔をしたリボーンがいた。
「リボーンさん……オレは…」
言いながら、獄寺は身を起こそうとして…身体に生じた痛みに顔をしかめた。
「起きるな、獄寺」
「ええと…オレ……」
「…すまない」
「リボーンさん?」
「オレのせいだ…オレのせいで、お前は……」
「……リボーンさん。そう、自分を責めないでください。オレも油断してました」
言って、獄寺は身を起こす。生じる痛みは無視した。
「獄寺、だから起きては…」
「いえ。事情はよく分かりませんが、あいつはまたリボーンさんの前に現れるでしょう。一箇所に留まっておくのは危険です」
「なら、オレだけ出ていく。お前は怪我をしてるんだし、ここに…」
「怪我をしているのはリボーンさんもですよ。ここに戻る途中、傷は開きませんでしたか?」
「…大丈夫だ。オレのはもう治りかけだし、それに……お前の怪我はオレの…」
「リボーンさん」
リボーンの台詞を獄寺は遮る。
獄寺は笑っている。そこに陰りは見えず、リボーンがこの家で初めて起きたときと同じ笑みだった。
「…オレは、右も左も分からない子供を治安の悪い外に放り出すほど、鬼ではないつもりですよ」
口にする言葉まであの日と同じ。
しかしベッドに座っているのは獄寺で、獄寺を見守るのはリボーンと、あの日とは立ち位置が逆だった。
「…何故だ」
「え?」
「何故、お前は見ず知らずのオレにここまでする。もしかしたらお前は死んでいたのかも知れないんだぞ!!」
心配のあまりに怒り、怒鳴るリボーンに獄寺はきょとんとした顔を向けた。
「何故…ですか。そうですねえ……」
獄寺は暫し考え、言う。
「まず、オレはリボーンさんを見つけた時から、関わったらある程度の危険が身に纏うことは分かっていました」
「何…?」
「泥棒を招き入れたら盗まれ、詐欺師を招き入れたら騙されましょう。同じように、裏稼業の人間を家に招き入れたら……まあ、この程度の怪我ぐらいはするでしょうね」
「獄寺…?」
「すみません。オレ、あなたの正体が何なのか大体分かってました。…でも、言いませんでした。その結果がこれなら…まあ、因果応報でしょうか」
「…オレの…正体……?」
「ええ。それは後で話しましょう。オレがあなたを放っておけない理由は…二つあります。一つは……母を思い出しまして」
「母?」
「ええ。オレの母親は、あなたを見つけたあの路地裏で…死にました」
「………」
「とあるマフィアに見初められて共になったはいいですが……色んな敵に狙われ、このスラム街まで逃げ込み…しかし逃げられず、父と同じマフィアに殺されました」
獄寺は顔を伏せる。
「オレは母の知人に預けられ、母は…一人逃げ、そして…誰の目にも止まらないようなあの場所で息を引き取りました」
血の跡から察するに、深手を負ってからあの場所に向かったようだと、獄寺は言った。
まるで誰の迷惑にもならぬようにと、自ら助けを放棄したかのようにと。
「そんな理由がありまして、いつもあの路地は気に掛けてるんです。そしたら血の跡を見つけて、追ったら血塗れのあなたがいて…」
「そうだったのか…」
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