水溜り
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あの人は きっと。オレのことなんてどうとも思ってなかった。

だから 一度でもいいから。オレの方を向けさせてみたかった。


雨が降る。水滴が落ちる。天から上から遠くから。地へ下へ此処へと向かってザァザァと。

雨粒を遮るものなんて持ってない。だから冷たい雫がそのまま体温を持っていく。


此処はとある森の中。

オレの目下には、最強であるはずのヒットマンの―――…


「…こんな所で死なないで下さいよ。10代目が哀しみます」


オレの声は雨音にかき消されてほとんど聞こえない。

けれどいいだろう。これは誰に届くことのないものだ。

…10代目に命じられて迎えに来たまではよかったものの、肝心の対象は既に物言わぬモノに成り果てていた。


(――結局最後まで、この人に見てもらえなかったな…)


昔から、この人はオレには冷たかった。

それはオレだけマフィアだったからかも知れないし、何度も言われた通りにオレが愚かだったからかも知れない。


あるいは、オレはこの人に嫌われていたのかも知れない。

オレはこの人の"生徒"ではあったけど、"教え子"としては見てもらえてなかったのかも知れない。


この人は遠かった。


近くにいるはずなのに、手を伸ばしても届く気がしなかった。

ずっと見てもらいたくて。認めてもらいたくて。いつか、いつか見直させてやると意気込んでいた…のに。


リボーンさんは、死んでしまった。


リボーンさんはきっと オレのことなんてどうとも思ってなかった。

だから一度でもいいから オレの方を向けさせてみたかった。


けれどそれも 今となっては叶わぬ夢。


貴方はきっと オレのことなんて嫌いだったでしょう。

それでもオレは 貴方のことは好きでした。


雨は未だに降り止まない。

雨がオレの髪を伝い頬を伝う。


オレの目の奥は乾いていたけど 水溜りに映るオレはまるで泣いてるようにも見えた。


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さようなら。オレが死んだら会いましょう。