裏切りと恋の狭間
2ページ/全2ページ


もう一つ、呪いを解く方があると、去り際に魔物は言った。

それは子を産むことだと。子を産めば罪は子に移り、母は呪いから解放されると。

母はその土地を後にした。生き抜くために。呪いを解くために。

生きた。母は生きた。苦しんだ。母は苦しんだ。怒った。母は怒った。泣いた。母は泣いた。

けれども、母の呪いは解けなかった。いつまで経っても、解けなかった。

そして、ある日母は一人の男と出会った。男は母に恋をした。

男は母が魔物であっても恐れはしなかった。男は母を求めた。

母は疲れていた。生きることに疲れていた。

母は忘れていた。求められることを忘れていた。

母は覚えていた。自分は子を生めないことを覚えていた。

だから母は応えた。一夜限りの夢に応えた。


そして――オレが生まれてしまった。


ああ、なるほどと、オレは思った。確かにオレは罪だ。

母は泣いた。オレを抱きしめて泣いた。

母は謝った。オレを抱きしめて謝った。

――何故、その日に教えられたのか、オレはもっと深く考えるべきだったのかもしれない。

最も、ソレに考え付いたとしても、オレはどうもしなかっただろうけど。


オレは名も無き洞窟に閉じこめられた。

ご丁寧に、鎖も付けて。

その鎖は真っ赤だった。ソレが幾重にも重なって、オレに巻き付けられていた。

ソレはお前の罪だと、男が言った。

お前の罪が軽くなるだけ、その鎖も軽くなると、男は言った。

オレは改めて鎖を見る。


――永かった。


延々と続くソレが、何重にもあるソレが、オレに絡み付いていて。

男は言った。


彼女はもう気が遠くなるほど生きてきたのに、まだ罪はそんなにもある。

魔物は彼女に嘘をついたのだ。

このまま外の世界にお前を出すと、何があるか分からない。

だから、オレたちはお前をそこに置いて行くことにした。


母は言った。泣きながら言った。


ごめんね、ごめんね。必ず貴方の呪いを解く方を見つけて来るから。


オレはそんな二人をただ見ていて。

オレはそんな二人をただ見送っていた。

――たぶん、もう会うこともないだろうと思いながら。

別に、信用してないわけじゃなかった。

少なくとも、母の方は本気で涙しているようだった。

けれど。

母はもうヒトなのだ。

そして、オレは魔物。

寿命がまず違う。

呪いを解く方も、人間の一生で見つかるのかも分からない。

そもそも、ホントにあるのかどうかさえ、分からない。

だから。オレは思った。

自分はきっと、ここに一生いるのだろうと。

もしかしたら、世界が滅びるその日まで、ここにいるのだろう、と。


そして今――相も変わらず、オレはここにいる。


ただ、あの二人がオレの知らないところで何かしてくれたのか、それとも他に何か理由があるのか鎖はあのときよりも短くなっていて。

…オレはふと気まぐれに、本当に気まぐれに、その鎖を手と手に取って――引っ張り合ってみる。


――断ち切れない。


++++++++++

もう溜め息も出ない。