薄汚れた純情
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戻って眠ってまた起きて。

そして夕暮れの時間、足元にあいつの忘れ物を見つけて――


――昔から、そう。

オレが好きになる人は、みんなみんな、遠くに行ってしまう。

この村にいた、あの無邪気な笑顔が魅力だった彼女を皮切りに。

オレが好きなった人は、家族で引っ越したり、一人旅に出たり…あるいは事故で、とても遠い所に行ってしまった。

何故かは知らない。むしろオレの方こそが知りたい。

…だから。オレは、もう人を好きにならないと、人を想わないと、そう誓ったのに。

忘れてた。忘れてたんだ。男だからって。魔物だからって。忘れてるフリをしてたんだ。

関係なかったんだ。性別も、それどころか人種さえも。

オレが好きになる人は、みんなみんな、遠くに行ってしまうんだ。


「っ…う、…ぐ、獄寺くん…」

オレは自分の部屋で独り泣きながら、彼を想う。


―もう逢えない、彼を―


母に言われた。もう村外れに行ってはいけないと。

あの汚らわしい魔物のいるような所に、行ってはいけないと。


――獄寺くんは汚らわしくなんかない!!


オレがそう言うと、母は酷く驚いた。オレはしまったと思ったが、もう後戻りは出来なかった。

母はオレが獄寺くんに呪いか何かを掛けられたと信じた。馬鹿馬鹿しかった。彼がどんな人かも知らないくせに。

――彼ほど、心優しい人はいないというのに。

…そう、彼は人だ。決して、魔物なんかじゃない。

彼は、獄寺くんは言った。自分は罪だと。オレは彼の出生を聞いた。オレは彼の出生を知った。

盲目な村人には分からないだろう。彼に呪いを掛ける力なんてあるはずがない。

だって――彼が、呪われているのだから。

彼は言った。自分に近付くと呪われると。

そんなの嘘だ。彼は自分が魔物だと知っていたから。自分に構うと回りに変な目で見られると分かっていたから。だからあんなことを言ったんだ。

何て優しい彼。少しはわがまま言ってもいいものを。

そう思っていたら、母が顔を出した。

「――陰陽師様が、お越しになったわ…さ、呪いを解いて、もらいましょう?」

――そんな無駄なことはしないで欲しい。そんなことよりも、彼の呪いを、どうか解いて――


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そうして彼を、どうか楽にしてあげて。