聖域への道
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「――それ、本当ですか」

「ああ。…まず、間違いないだろう」

「そんな…」

じゃあ、じゃあ…彼が今まで閉じ込められていた意味は…

「まったく、意地悪な魔物もいたものだ。確かにそいつは嘘など付いてはいなかった。本当のことを言っていた」

「…すみません。お世話になりました…」

オレはがたっと音を立てて、その場を立つ。居ても立ってもいられなかった。

「…何所へ行く?」

「決まってます。彼の…獄寺くんの所です。獄寺くんがあんな所にいる必要なんて、どこにも…一つも、ない!!」

「確かにな…しかし、良いのか?」

「――え?」

「聞いた話、そいつはもうかなりの年月を過ごしてきたのだろう…もしかしたら桁が三つでは足りないかも知れぬ」

「…だから、何だってんですか」

「…呪いを解いた後、そいつは恐らく人間には成れまい」

「――え」

「時が経ちすぎている。最早その魔物の呪いで形を生成されていると言っても良いかも知れぬ」

「…そんな」

思わずオレはうなだれてしまう。何が最良の策なのか分からない。

喋る声がなくなって。急に辺りが静かになって。

――ふと、開いた窓の方から何かが聞こえてきて。

「…ぬ?」

「――これは…」


「―――と。ご清聴有難う御座いました」

「ご、獄寺くん…」

「ん?」

「滅茶苦茶上手いじゃん!後悔するなって言うから下手くそだと思ったのに!!」

「誰も初めてなんて言ってないし。ここに来る前には、あちこちを旅してて。母方が楽器好きで、良くオレに聞かせてくれたんだよ」

「へー…じゃあ、他にも出来るの?」

「まあな。大体の楽器は手に取ったことがあるし――その中でも、そうだな。ピアノが一番得意だった…」

「…すごいなぁ。ところで、今の曲はなんていうの?」

「…ん?さあ。曲名は知らないけど、ただ覚えてるだけの曲。…ああ、確か」


「別れの曲、だったかな?」


「――っ!!」

「うぉ!どうした!いきなり泣き出したりして!!」

――ずるいずるい、ずるすぎる!何も分かっちゃいないくせに!今が一体どんな状況かまるで解っちゃいないくせに!なのにどうして!!

なのになんで、どうして、こんな、こんなときに彼は、獄寺くんは…!

全てを分かっていて、その上で…

――…もういい、みたいなことを言うのさ…!

オレは自分の弱さに嫌気が差し、独り――泣いた。


++++++++++

ごめんなさい。

オレはキミと、別れたくないです。