分かち合ったモノ
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例えばそれは、今日の出来事とか他愛のないお喋り。キミと二人なら、どんな話でも楽しかった。
例えばそれは、"また明日"なんて他愛のない約束。たったそれだけで、オレは少しの別れも笑って耐えられたんだよ…
あのあと。オレは泣いて泣いて泣きまくって。
これでもかって言うぐらい泣いて。一生分なんかじゃないかってぐらい泣いて。
涙か枯れて。でも暫くするとまた涙が出てきて。
ずっとずっと泣いて。水分の出しすぎで身体がふら付くほど泣いて…
そしてようやく泣き止んで。
――オレは、決意した。
うちの中を探しまくる。
ある、はずなんだ。その昔、オレが無茶を言って買ってもらったあれが。
埃だらけになって。でも探して。
「――と。…ん、あった」
ようやく見つけたそれを大事に持って。オレは駆け出す。
彼の。獄寺くんの元へ。
――彼の呪いを、解くために。
二日振りに訪れたこの場所は、何も変わっちゃいなかった。
相変わらずその入り口はオレを歓迎しているように見えて。
相変わらず紅葉はオレを彼の元へと導いてるように見えて。
相変わらず彼は――獄寺くんは、その場所にいて。
相変わらずじゃないのは、オレを見つけると、酷く驚いた顔をしたということ。
「な…っ!?ツナ…」
「――久しぶり。獄寺くん」
「な、んで…ここに…」
「獄寺くんに、逢いたかったから」
「!?ば、馬鹿!暫く来るなって、言っただろ!」
「うん。…ねぇ。獄寺くんって、ピアノが一番得意なんでしょ?」
「あ…?そういえばそんなことも言ったか…?」
「うん。言ったよ。…それでね」
オレはよいしょっと、持ってきたそれを獄寺くんに見せる。また獄寺くんが驚いた。
「…ちっさいけど、おもちゃだけど。…ピアノ、うちにあったから持ってきた。ね、何か弾いて欲しいな」
「はぁ?」
「良いでしょ?何でも良いから。ね。早く」
「…分かった。ただし、聞いたらすぐ帰れよ」
「……」
オレの無言の返答をどう受け取ったのか、それでも獄寺くんは、おもちゃのピアノを受け取ってくれた。
あの時のように、目を瞑って、ピアノに指を這わせて。ゆっくりと弾き始める。
それは。長いような短いような、曖昧な時間。
夕暮れの光に彩られた小さな舞台で、獄寺くんはオレに弾いてくれて。
椅子も何もない客席で、オレはそれを見ていて。
彼が弾いたのは、前にオレに聞かせてくれた、あの別れの曲。
別れの曲、って言ってる割にはそれは穏やかで、落ち着いていて。自分の芯を持っているように、力強くて。
まるで、自分独りでも大丈夫だからって、そう言っているようにも聞こえた。
暫くして、演奏は終わった。オレは拍手で彼を労った。
「…はぁ、もうこれで良いだろ?ほら、かえ――」
帰れと。きっと獄寺くんはそう言いたかったのだろう。
けれど。彼はそれを言うことは出来なかった。
――オレが抱きついたから。
「なっ!?え!? ちょ、おい、ツナ!!離れろ!!」
「獄寺くん。演奏聞かせてくれてありがとう。おかげで決心が付いた」
「はぁ?何でも良いから離れろー!!」
「獄寺くんは、もう何年も、何十年も、何百年も――もしかしたら何千年も、ずっとここにいたんだよね…」
「それがどうした!それとこれが何の関係があるってんだ!!」
「辛かったよね、寂しかったよね、苦しかったよね、悲しかったよね…!」
「――ツナ?…泣いているのか?」
「魔物ってだけで!それだけで!言われない中傷を浴びたことだってあったんだよね!だけど自分は罪だからって、それを甘んじて受け入れて…!」
「ツナ?ツナ!おい!!」
「それだけじゃない!獄寺くんは魔物に関わるとどんな目に見られるかってことを知っていて!だからありもしない呪いに掛かるなんて言って!本当に呪いが掛かってるのは自分なのに!」
「――ツナ!!」
「…オレは一体何に怯えていたんだろう。獄寺くんと一生逢えないこと?…馬鹿だよね。獄寺くんは苦しみから解放されたいだろうに」
「――今、呪いを解いてあげるよ。獄寺くん…」
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