分かち合ったモノ
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――とりあえず、獄寺くんは激しく困っているようだった。

「…ツナ。どうでもいいからまず離れてくれ…話はそれから聞くから…」

「ヤダ」

取りつく島も与えず、オレは答える。

「なんで…」

「獄寺くんこそ、なんで離れて欲しいの?」

「そりゃ…お前…こういうのに、慣れてないから…その」

「――絶対離れない」

「なんで…」

「言ったでしょ?呪いを、解くんだよ」

「それとこれと、一体何の関係が…」

「――魔物は、獄寺くんのお母さんに呪いを掛けた魔物は、こう言ったんだよね。"生きて。怒って。苦しんで。泣いて。子供の分まで生き抜いたら呪いは解ける"って」

「…そう、聞いた」

「――合ってたんだよ」

「あ…?」

「魔物は嘘なんか言ってはなかった。魔物は正しいことを言っていたんだ」

「なに、言って…」

「魔物は本当のことしか言ってなかったんだ。魔物は、"子供の分まで生き抜け"と。そう言ったんだ」

魔物は。子供の分まで怒って。苦しんで。泣いて。

魔物は。子供の分まで笑って。楽しんで。遊んで。

――生きてと。そう、言ったんだ。

「獄寺くんのお母さんも。獄寺くんも。怒ったり、泣いたり、苦しんだりすることは沢山あっても。笑ったり、遊んだりしたことは、ないでしょ」

「……」

「そりゃそうだよね。罪の意識があるって言うのに、そんなこと出来るはずがない」

「…あの馬鹿…考え付いたって、こう言うことか…」

「え?」

「――何でもない…それよりも、オレが楽しめば呪いが解けるってことは分かった。で、それでなんでお前が引っ付くんだ」

「うん?」

「だから…関係ないだろ、これは…」

「――関係、なくはないよ?」

「あ?」

「――人に愛されるのも、体験しないと」

「んな…!?」

「獄寺くん、いっぱい遊ぼう?いっぱい楽しいことして。そしていっぱい笑おう?オレと一緒に」

「なんで…そこまで…」

「――好きだから」


ぱきり。


軽い音がして。見ると獄寺くんの鎖に、ひびが入っていた。

「…決まり、だね」

「……」

「獄寺くん?」

「でも…オレは、楽しむなんて事、出来ない…」

「…獄寺くん」

「オレのお袋は、あんなに苦しみながら生きてきたんだ。オレを生んだのを、本当に後悔したらしい。オレに呪いを掛けてしまったから」

「…でも、じゃあ、どうするのさ。このまま呪いを受けながら生きていくの?」

「――それでも、いいと、思ってる。…ここまでしてくれた、ツナには悪いけど」

「…獄寺くん。じゃあ、さ――」

「うん?」

「お話、してよ」

「話?」

「そう…オレに会う前にも、誰かに逢ったことあったんでしょ?その人たちの話。――聞きたいな」

「――…」

「駄目?」

「…いや、いいよ。せめてもの詫びに、話してやる…呪われた魔物なんかに構った、馬鹿な奴らの話を…」

「自分のこと、そういう風に言わない!」

「はいはい…最初の奴はなー…もう、どれほど前の事かな…」

オレは昔を思い出してる獄寺くんを、力一杯抱きしめる。

せめて、最後のときまでその温度を感じていたかったから。

――ごめんね。獄寺くん。

獄寺くんは、呪いを解く気が、幸せになる気がないって、言ったけど…

でも、オレは、どうしても獄寺くんに幸せになって欲しいから。

だから。オレは獄寺くんの呪いを、解くよ。


――もう、迷わないから。


++++++++++

だからどうか、幸せに。