昔の自分はもういない
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少年を逃がして獄寺は壁に雪崩れかかる。

どこもかしこも血塗れだった。

少年を庇うためにその身を挺して壁になったのがその大きな要因だ。

足に至ってはほとんど感覚がない。もう歩くことすらも出来そうになかった。

さてはて敵を撒いたは良いが、これでは出血多量でこの世からおさらばするのはまず間違い。

といっても、連絡手段もないこの状況ではなにも出来なくて。

獄寺は意識が朦朧とする中、その姿を目の端に捉えてニヤリと笑った。


「おせぇよ…馬鹿」


そしてそう呟いて、意識を手放す。

走ってきたのは先程の少年に連れられた、ボンゴレのメンバーだった。



「……………ぅ」

「気が付いたか?隼人」


飛び込んできた白い天井を視界に納めると同時に、獄寺に声が掛けられる。


「シャマル…じゃあ、ここはボンゴレか……」

「そう言うこと。よく目が覚めたな。あのままくたばってもおかしくない状態だったのに」

「バカやろー…10代目を置いて死ねるか」

「はいはい」


獄寺は子供扱いするシャマルを睨みつける――が、その目が驚きに彩られた。


「……シャマル、あれから何日経った?」

「んー?…四日。まったく、よく寝やがって」

「その…悪い、シャマル……」

「あ?何のことだ?」

「………寝てねぇんだろ?オレが意識を取り戻すまで。ずっと」


獄寺の視線の先には、灰皿に収まりきれてない煙草、よれた白衣があった。


シャマルはそのことに言われるまで気付かなかったのか、ちっと舌打ちを一つ。


「…ま、オレの可愛い隼人が生死の境を彷徨っているってのにのんびり眠るってわけにもいかねぇだろ」


生死。さらりと言われたそれを聞いて本当に自分は危なかったのだろうと獄寺は己の容態を察した。


「―――全治三ヶ月だ。それまで日本への帰国許可は下りねぇ。分かったな?」

「なっ!?三ヶ月も?ふざけるな!」

「その台詞はそっくりそのままお前に返す。お前一人で歩くことすら出来ねぇくせに、何馬鹿なこと言ってんだ?」

「………む」


確かに、今の獄寺はほとんど身体の自由が利かない。足の感覚は戻ってはいたが少し動かすだけで激痛が走るほどだ。


「分かったか?そんななりじゃあボンゴレ坊主も護れやしねぇだろ?向こうには連絡済だ」

「……わか…った」


かなり渋々だが、獄寺は頷いた。

獄寺は少し話しただけで疲れてしまったのか目蓋を閉じる。


「………な、シャマル…」

「………ん?」

「しんぱい…した?」


それは聞くというより、ただ言った、そんな感じの言葉。

その証拠に獄寺は返答を待たず寝入っていた。恐らく起きたときには何も覚えてはいまい。

シャマルは静かに寝息を立てる獄寺の髪をくしゃりと撫でて。


「馬鹿が……死ぬほど、心配したよ」


そう言ってはシャマルは彼に幼い頃そうしていたように、獄寺の額に口付けを一つ落とした。


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よく生きて帰ってくれた。あとは治すだけだな。