名の亡き曲
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急に演奏は終わって。物語も一時中断。
…どうしたの?続きは?
―――時間が、来てしまいました。
そう言う彼の言葉に時計を見れば、ああ確かに。下校時間まであと五分。この音楽室も鍵を掛けられる。
…あの風紀委員長には、融通が利かないからな。
彼はピアノに鍵を掛けて。オレは窓を閉めて。そこを後にする。
……ねぇ、獄寺くん。
なんですか?
あのあと、物語の続きは。どうなるの?
…駄目ですよ。今聞いても面白くないでしょ?
うーん、そうかもだけどさ。
では、10代目はどう思います?
―――え?
あのあと。物語の続きは。どうなると思いますか?
うーん、そうだね…月並みだけど少年は自分の命と引き換えに薬草を受け取って。娘は助かる…かな。
半分正解で、半分外れです。
えぇー、じゃあどうなるの!?
………今度、逢ったとき。お教え致しますよ。
ちぇ、今教えてくれたって良いじゃん!!
―――それでは10代目。オレはこっちですから。
あ、うん。………じゃあね獄寺くん。また明日。
………。はい10代目。また、です。
―――それっきり。
それっきり彼とは、逢っていない。
いきなり、彼はオレの目の前から消えた。
彼の。彼らの関係者に聞いた話では、イタリアに帰ったと。
イタリアに、彼の所属するボンゴレに帰ったという話で。
…大きな抗争があるらしくて。それの戦闘要員に―――捨て駒の一つに、選ばれたという話で。
オレは嘆いて、オレは怒って。オレは絶望した。
――それ以来だ。
オレがピアノの音色を聞くと思わずそこへと駆け巡るようになったのは。
もちろん、彼がそこにいるはずもなく。けれど、それでもオレはそれをやめることも出来ず。
月日が流れて。オレはイタリアに渡って。……マフィアになる気はないけど、でも。彼が最後に渡った地だから。
ボンゴレにはいかなかった。彼を殺した組織に行きたくはなかった。―――正確に言うなら。彼の死を。そうだと。認識したくなかった。
リボーンが意外にも許してくれて。オレは安アパートを借りて、住んでいた。
でも、そこでも何も変わらず、オレはピアノの音色を聞くと居ても立ってもいられなくて。走り出して。
…それが聞こえてきたのは、ようやくオレがイタリア語に慣れてきた頃だった。
―――全力疾走で、その音目掛けて。走る走る。
…いつもと何が違ったのかというと。その音色は、あの最後の日。彼が弾いてたあの曲で…
名を知らぬ曲。名を与えられなかった曲。彼が教えてくれた曲。
音色を辿って。着いた先にあったのは…協会。
門をくぐって。確認。その曲を、パイプオルガンを弾いてるのは―――見知らぬ神父。
「…お客様ですか?」
神父が、オレに気付いて声を掛ける。演奏はまた中断。
「………初めまして。貴方の弾いてるその曲に覚えがありまして―――その曲は、どちらで?」
オレがそう言うと、神父は少し驚いたようで。オレをお茶に招いてくれた。
その曲は神父が、数年前にある人物に教わったものだと。話してくれた。
その協会の孤児が怪我をして、入院した先の病院で。ぼろぼろのおもちゃのピアノでその孤児に弾いてくれてた曲だと。教えてくれた。
その人物は、何があったのか。酷い状態だったらしい。
眼は潰れ。言葉は話せず。歩く事すらも叶わなかった。
その人物の弾く曲は、大層その神父の心を掴んだ。神父がその事を言うと、その人物は笑って。話せないから、筆談で。答えた。
もしもオレの願いを叶えてくれるのなら。この曲を教えてやっても良い。
その人物の願いとは、とてもとても簡単なもの。
もしも。この曲の出生を問う、自分と同い年ぐらいの少年が現れたら。これを渡して欲しいと。
そう言って、神父がオレに手渡したのは。一通の手紙。宛名も、住所も。切手も貼られてない手紙。
オレはその手紙を受け取って。協会を後にしようとして―――振り返った。
「…ああ、そうだ。――失礼ですが神父。二つ、お聞きしたい事が」
「なんでしょう?」
「貴方は、あの曲に物語が含まれているということをご存知でしたか?」
「いいえ。彼が教えてくれたのは曲だけでした」
「そうですか…」
「もう一つの質問は?」
「ええ、―――彼は貴方に曲を教えたあと。…どうなりましたか?」
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