名の亡き曲
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―――ああそうだね。獄寺くん。全くだ。

手紙にはまだまだ続きがあって。…でも。それはオレへの謝罪文だろうから。まぁ良いやと思って。

まったくなんだこの物語は。無茶苦茶にも程がある。救いがない。…作った奴の気が知れないよ。

…ただ一人の人物を想い、それ故に死せる事が許されぬ存在―――か。


―――もしも。を思う。


もしも。今ここで、オレが海に飛び込んだら。…キミの所まで行けるのかなって。そんなもしも。

想い人のいない世界で生きる辛さは。この少年ほどじゃないだろうけどオレだって味わってるし。自殺したくなる気持ちも分かる。

ああ、思いついたら物凄く魅力的な提案に見えてきた。この、彼と一番近いこの場所で、彼の元へ行くなんて。

ここには、自殺の邪魔をする憎たらしい短剣なんていないし。うん。じゃあ飛び込もうか―――


「…何してんだ?ツナ」

「―――見つかっちゃったか」

「それはこっちの台詞だ。隠していた訳ではないが、公開してた訳でもない獄寺の墓を。良く見つけられたな」


獄寺くんの…墓。

それだけの言葉に、ぐらりと世界が揺れるような思いになる。


「…でも。リボーンが短剣じゃ、自殺は出来そうにないな」

「何の話だ?」

「なんでもないよ」


―――でも。オレには呪いは掛けられてないから。いつかは彼の元へと行けるかな?

オレはまた獄寺くんの眠ってるそれの前に座り込んで。


「…取り乱さないだな」

「あれから、何年が経ってると思ってるの。この可能性は真っ先に思いついたもので」


真っ先に、否定したもので。


「――覚悟も、つけてたよ」


今にも、倒れてしまいそうだけど。

時が、流れ過ぎる。ゆっくりと。なのに確実に。


「―――そろそろ戻った方が良いぞ」

「もう少し…」


日が暮れる。赤い夕焼け。まるであの日に帰ったよう。

けど、ここにはキミはどこにもいない。どこを探しても、いない。

オレはゆっくりと立ち上がって。獄寺くんに背を向ける。


「…もう、良いのか?」

「リボーンが立ち去ってくれないんだもの」

「――自殺でもされちゃあ、困るからな」

「あはっ」


思わず笑ってしまう。

やっぱり。リボーンはオレの短剣だった。


リボーンがいる限り、オレは死ねない。


リボーンが死んで、オレが自殺するのが先か。それともオレがマフィアの任務で死ぬのが先か。分からないけど。

オレが獄寺くんの元へいけるのは、当分先送りになりそうだった。


さよなら獄寺くん、また逢う日まで。


オレは心の中で獄寺くんにそう言って、リボーンと共にその場を後にする。

頭の中では、獄寺くんが弾いてくれたあの曲が、いつまでもリフレインしていた。


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いつかいくよ、きみのところまで。