名の亡き曲
4ページ/全4ページ
―――ああそうだね。獄寺くん。全くだ。
手紙にはまだまだ続きがあって。…でも。それはオレへの謝罪文だろうから。まぁ良いやと思って。
まったくなんだこの物語は。無茶苦茶にも程がある。救いがない。…作った奴の気が知れないよ。
…ただ一人の人物を想い、それ故に死せる事が許されぬ存在―――か。
―――もしも。を思う。
もしも。今ここで、オレが海に飛び込んだら。…キミの所まで行けるのかなって。そんなもしも。
想い人のいない世界で生きる辛さは。この少年ほどじゃないだろうけどオレだって味わってるし。自殺したくなる気持ちも分かる。
ああ、思いついたら物凄く魅力的な提案に見えてきた。この、彼と一番近いこの場所で、彼の元へ行くなんて。
ここには、自殺の邪魔をする憎たらしい短剣なんていないし。うん。じゃあ飛び込もうか―――
「…何してんだ?ツナ」
「―――見つかっちゃったか」
「それはこっちの台詞だ。隠していた訳ではないが、公開してた訳でもない獄寺の墓を。良く見つけられたな」
獄寺くんの…墓。
それだけの言葉に、ぐらりと世界が揺れるような思いになる。
「…でも。リボーンが短剣じゃ、自殺は出来そうにないな」
「何の話だ?」
「なんでもないよ」
―――でも。オレには呪いは掛けられてないから。いつかは彼の元へと行けるかな?
オレはまた獄寺くんの眠ってるそれの前に座り込んで。
「…取り乱さないだな」
「あれから、何年が経ってると思ってるの。この可能性は真っ先に思いついたもので」
真っ先に、否定したもので。
「――覚悟も、つけてたよ」
今にも、倒れてしまいそうだけど。
時が、流れ過ぎる。ゆっくりと。なのに確実に。
「―――そろそろ戻った方が良いぞ」
「もう少し…」
日が暮れる。赤い夕焼け。まるであの日に帰ったよう。
けど、ここにはキミはどこにもいない。どこを探しても、いない。
オレはゆっくりと立ち上がって。獄寺くんに背を向ける。
「…もう、良いのか?」
「リボーンが立ち去ってくれないんだもの」
「――自殺でもされちゃあ、困るからな」
「あはっ」
思わず笑ってしまう。
やっぱり。リボーンはオレの短剣だった。
リボーンがいる限り、オレは死ねない。
リボーンが死んで、オレが自殺するのが先か。それともオレがマフィアの任務で死ぬのが先か。分からないけど。
オレが獄寺くんの元へいけるのは、当分先送りになりそうだった。
さよなら獄寺くん、また逢う日まで。
オレは心の中で獄寺くんにそう言って、リボーンと共にその場を後にする。
頭の中では、獄寺くんが弾いてくれたあの曲が、いつまでもリフレインしていた。
++++++++++
いつかいくよ、きみのところまで。
前
戻