願う少年、叶えるマフィア
1ページ/全5ページ


キミがいて、オレがいて。二人、楽しそうに笑ってる。

それだけで幸せ。他には何もいらないって言えるぐらい―――幸せ。


キミが目の前にいて笑ってる。オレに笑い掛けてくれている。

だからオレも、キミに笑い返す。そしたらキミは、くすぐったそうな顔をするんだ。

なんだろう。なんだかふわふわする。


オレはキミの手をとって、歩き出す。


行き先は様々。賑やかな繁華街を歩いたり、公園で一緒にアイスを食べたり。

なんだかデートみたいだねって、オレがそう言うとキミはすっごく赤くなって。

そうですねって、軽く返せばいいのに。そんな可愛い反応示すから、オレはつい悪ふざけで、キミに軽くキスなんかしたりして。

そしたらキミは固まっちゃって。もうそれが可笑しくって。

なんでかな?なんだかふわふわする。


「―――ね。何かオレにお願いとか、ない?」


オレがそう言うと、キミは赤い顔のままきょとんとして。

暫く頭を捻って。考えて考えて考えて………でも結局首を横に振って。何もありませんって。


「そっか」

「どうしたんですか?いきなり」

「ん…別に?」


……本当、どうしたんだろ、いきなり。

…変なの。なんだかふわふわする。


「―――獄寺くん」

「はい?」

「行こ!!」

「え…わ!?」


オレは獄寺くんの手を取って走り出す。桜の花びらに包まれた公園を後にする。

………桜の、花びら?

はっとして振り向く。でも、そこには公園なんてなくて。


「どうしたんですか?10代目?」

「なんでも…ないよ」


そうは言うけど、なんでもない訳なくて。

だって、公園を出たはずなのに、その公園はどこにもなくて。

それ以前に、

今は、もう10月なのに。桜なんて、咲いてるはず、ないのに。


………って、10月?


あれ?10月っていえば、そう。今は昼過ぎで。オレたちは学校に行ってなくちゃ、いけなくて…?

あれ…?あれ?

ふわふわ。ふわふわ。


頭の中にもふわふわが入ってきて、上手く思考が纏まらない。


そういえばと、オレは獄寺くんを見上げる。

いつも怖いと思っていたはずなのに、今のオレにそんな気持ちは全然なくて。

時が経ったから慣れただけで済ますにも、キスするような関係にいつからなったんだっけ?

いつから―――


「―――10代目」


………え?


「帰ります?」


そう言う獄寺くんの顔は、何故だかぐんにゃりまがってて。

それは、オレが泣いているからだって、たったそれだけのことに気付くのに、凄い時間が掛かって…

だから、獄寺くんの言うことも、理解するのに、凄い時間が、掛かって……


「ん。大丈夫。平気……だか、ら…」


そうは言うけど、オレは全然平気じゃなくて。


「―――10代目」


だから。オレが一番って言う獄寺くんのことだから。


「帰りましょう?」


そう言うことも。予想出来て。


………でも。


「や…だ」

「…10代目……」


大丈夫じゃないのに。それが正しいってことも分かってるのに。

獄寺くんに迷惑を掛けることになるって分かっていても、それでもオレは、帰りたくなくて。

…何故だか……帰るのが、怖くて。


「大丈夫ですよ。10代目」


なのに獄寺くんは。


「どこにも、怖いものなんてありませんから」


全てを分かっているみたいに、オレを安心させるように笑うから。


「帰りましょう?」

「―――うん」


だから、その差し出された手を取って。

ふっと、風が吹いて。気が付くともうそこはオレのうちで。


「さ、10代目…」

「………」


きゅっと、獄寺くんの手を握る。獄寺くんと一緒なら、どんなものも怖くないと思ったから。

………なのに。


「―――10代目」


獄寺くんはオレの手をぱっと離して。オレと距離を作って。


「オレは、ここまでです」

「―――え?」


獄寺くんは、少し寂しそうに笑って


「オレは、これ以上行けませんから」


なんて。そんな訳の分からないことを言い出して。


「何で…」


オレがそう聞くと、獄寺くんは困ったように笑って。


「分かってるんじゃないんですか?」

「―――え」


なに、を?


「オレが行けない理由」


わか…らない。分かるはずがない。


「―――10代目、おとぎばなしをしましょう」

「え?」

「……むかしむかし、あるところに一人のマフィアがいました」

「………」