眠れぬ森の
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「アルコバレーノ、そろそろ長くないですよ」


不意にそんな声が聞こえ、振り向くといつの間に現れたのか、いつものあの嫌な笑みをたたえた骸がそこにいた。

地下牢に閉じ込められてるくせに、こいつはこうして度々現れては変な予言めいたことを言い残しては消えてゆく。ちなみに当たる確立は五分五分だ。


「リボーンさんが…なんだって?」


どうせいつもの戯言なのだから無視すればいいのに、オレはつい反応してしまう。

だがしょうがないだろ?話題があのリボーンさんなのだから。敬愛する恩師のよからぬ話は無視出来ない。たとえ嘘に決まっていても。

そう、今回だって嘘に決まってる。だってこいつはリボーンさんを嫌っているのだから。だから嫌がらせめいた戯言を言ってオレたちを混乱させるつもりなんだ。なんてつまらない奴。

オレの顔はきっと険しい顔をしているのだろうが、対して骸は相変わらず嫌な笑みを浮かべていた。気に食わない。


「アルコバレーノはもう長くありません」


同じ言葉を繰り返す骸。オレの苛立ちが心の中で爆ぜるのが分かった。血管が浮き出る。

思わず殴りたくなるが、骸の身体はクロームのものだ。オレは拳を握り締めて堪えた。

だというのに。


「あなたは、彼のことをどれだけ知っているというのですか?」


まだこいつは話し続けやがる。笑みをたたえたまま。

嫌なところを突いてくる。確かにオレはあの人のことを何も知らない。あの人は何も語らないから。


「呪われし赤ん坊。むしろ今まで生きてこれたのが奇跡と言ってもいいのですよ?」

「…黙れ」


低い声が出た。とっとと消えてほしかった。このままではクロームの身体ということも忘れて殴ってしまいそうだ。

それが通じたのか、骸の身体が透けていった。

オレは骸を見届けることもせず踵を返した。一刻も早く骸から離れたかった。

だというのに。


「アルコバレーノから、目を離さないことです」


なんて声が、耳元で聞こえた。

思わず振り向くが、既に骸の姿はなく。

代わりにどこかきょとんとしたクロームが不思議そうにこちらを見ているだけだった。

無論のこと、クロームは何も覚えてなかった。