眠れぬ森の
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それから暫く、仕事の関係で自室に戻る時間が深夜になる事が多くなった。

部屋に戻る途中、オレはリボーンさんの部屋の前を通るのだが毎回リボーンさんは起きていた。

ある時は本を読んでいたり、またある時は武具の手入れをしていたり。またある時はコーヒーを飲んでいたり。

通りかかる度、オレはリボーンさんに「時間があるなら付き合え」と誘いを受け遅くまで話をした。

それは本当に世間話とすら呼べないほどの他愛のない話だったのだけれど、オレにとっては有意義な時間だった。


思えばオレは、リボーンさんとは仕事や教え子だけの付き合いしかした事がなかった。


だから話す度に違うリボーンさんが発見出来て…嬉しいような、楽しいような、そんな気分になった。

恥ずかしいことにそれまでのオレはリボーンさんを強くてそれ以上に厳しくて自己中心的…もとい、悪戯好き……でもなく、茶目っ気のある方だと思っていた。いや間違いではないと思うが。

だけどリボーンさんと会話を重ねるうちに、当然ながらそれだけじゃない事が少しずつ分かっていった。

リボーンさんはオレが思っている以上に…なんといえばいいのだろう。


やわらかい人だった。


仕事外だからかもしれないが、リボーンさんの口調がとても柔らかく、面白くてためになる話をたくさんしてくれた。

オレは…言ってはなんだが、それまでリボーンさんにいい印象(てか嫌われてると思ってた。マジで。いや尊敬はしているぜ?)を持ってなかったから、驚きの連続だった。

リボーンさんと会うのが、リボーンさんと話をするのが日課で、楽しみになっていた。


ある日、いつものようにリボーンさんの部屋の前を通ると部屋の明かりが消えていた。

まぁ、時間が時間だ。リボーンさんも早めに寝る日もあるだろう。

そう思って自室に向かおうとしたら、後ろから声を掛けられた。それはリボーンさんの声で、振り向くとリボーンさんがいた。どうやら見回りをしていたらしい。

そしてそれからいつも通り、リボーンさんの部屋で話をした。

しかし、そのとき初めてオレは疑問に思った。


…リボーンさんは……一体いつ眠っているんだ?


朝昼に寝ているのか?しかしオレのように生活スタイルが変わったようにも見えない。

オレは10代目やその他同僚に聞いてみた。その結果……


リボーンさんは、以前と変わらず朝から仕事をしているらしい事が分かった。

無論昼も仕事で、多少サボることはあっても眠る素振りは見せていないらしい。


…おいおい、待てよ。

朝からずっと仕事して。

夜は見回り、それとオレの話し相手をして。


…本当に…一体いつ眠っているっていうんですか?


オレが部屋から去り、リボーンさんが仕事に向かうまでの早朝の時間か?否。いくらなんでも短すぎる。

オレはまた不安になった。

リボーンさんはあの日…なんて言っていた?


実はオレは、寝たら死ぬんだ。


ぞっとする。

まさかという思いが背筋を駆ける。

リボーンさんはすぐに冗談のように言っていたけれど。


まさか、本当に?


待て。そうだとするとなお恐ろしい事がある。

リボーンさんはあの日、もう一つ言っていた。


それに、最近身体にもガタが来ている。


あれが嘘ではないとしたら?

湧き出る不安が止まらない。

消えたはずの骸の言葉が頭に響く。


………。


リボーンさんから…目を離すな、か…

そして今日も日が沈む。

夜が来る。

いつもと変わらぬ、時間が来る。