眠れぬ森の
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いつもよりも遅い時間。

そんな時間でも、やっぱりリボーンさんは起きていた。


「遅かったな。仕事に手間取ったか?」

「いえ…」


リボーンさんは変わらない。口調も、態度も、何もかも。違うのはオレの方だ。オレだけだ。

喉が重い。口から声が出辛い。何故だかオレは泣きたくなった。

そんなオレを見て、リボーンさんはオレに向き直る。


「…どうした?」


オレの気のせいだろうか。その声色はどこか優しげに聞こえた。

声を出そうとするも、上手くいかない。

声を出してしまったら、何もかもが壊れてしまいそうな気がして。声が出せない。

いっそのことリボーンさんが何か話題を出してくれないだろうか。何でもいい。どんなことでもいい。姉貴がまたクッキーを作ってきたとか、ランボがドジを踏んだとか、そんなくだらないことでいい。

そんないつも通りの話を出してくれれば、きっとオレもいつも通りに戻れると思う。

だけどリボーンさんは何も言わない。明らかに様子のおかしいオレを前にして、ただじっとオレの言葉を待っている。


「あの―――リボーン、さん」

「…なんだ?」


やっとの思いで声を出して、更に言葉を続ける。声が震えそうになる。

言ってしまったらきっと、後戻り出来ないだろうと分かっているから。


「リボーンさんは、いつ…眠ってらっしゃるんですか?」

「………」


聞いてしまった。

普段なら、何てことない一言。

だけど、今のオレには…そして恐らくリボーンさんにも……言葉以上に深い意味がある。

リボーンさんはオレの言葉を聞いて少し…ほんの少しだけ、目を開かせた。

リボーンさんは少し顔を伏せ、けれどすぐに上げた。


「急にどうした?」

「いえ…少し。気になりまして」

「こないだの話を鵜呑みにしたのか?あんな馬鹿みたいな話、信じるなって」

「ですが…事実あなたはずっと起きてるじゃないですか」

「調べたのか?」

「気になりまして…少しだけ聞き込みを……」

「そうか。…そうだな。いつって言われても困るが…まぁそんなに気になるなら今から寝てやろうか?」

「え…?」


予想外の言葉が飛び出した。

今から…寝る……?


「まだ眠くないんだけどな。でも可愛い生徒を安心させるためだ。一肌脱いでやろう」

「あ…ありがとうございます」

「礼を言われるほどのことでもねーけどな。どうする?オレが寝るのを見とくか?」

「え…?あ、よろしければお願いします」


思わず脊髄反射でそう言ってしまった。そして言ったあとに言葉を理解した。

リボーンさんも冗談で言ったつもりだったのだろう。驚いていた。

ああ…もう、どうにでもなれ。


「…よろしいですか?」

「まぁそりゃ別に構わんが…本気か?面白いもんなんてないぞ?」

「そんなことないですよ。とても興味があります」

「野郎の寝顔に興味があるのか?お前とは趣味が合いそうにないな」

「いえ…そういう意味ではなく……」

「ま、それでお前が安心するってんならいいか」


そう言うと、リボーンさんは寝巻きに着替えた。そしてベッドに入る。

…あと、わざわざオレが座る用に椅子も用意してくれた…

ベッドに横たわるリボーンさんを枕元で見守る。

…なんだか…嫌に照れくさいというか…なんというか……

それはリボーンさんも同じだったのか、珍しく苦笑していた。


「そんなに見るなよ。気になるだろ」

「それはリボーンさんが目を開けてらっしゃるからですよ」

「…そうかもな」


そう言うと、リボーンさんは静かに目蓋を閉じた。


……………。


―――ふと、すぐ傍で何かが動く気配がした。

けれどそれに疑問を覚える間もなく、オレの意識は深く沈んだ。