望みし手にし
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目が覚めた。
無音で無色でノイズのかかった夢を見ていた。それだけの話だった。
ふと頬を伝う何かに気付いた。手の甲で拭ってみると透明な液体。
なんだかそれに腹が立って。誤魔化すように煙草に火を点けた。それを止めるものは誰もいない。つーか部屋に誰もいない。
…シャマルはオレが起きたとき既にこの部屋にはいなかった。
どうせ女の所にでも行ったんだろう。オレには関係無い。ないったらない。大人嫌いだし。
そう。嫌いだ。だから信じない。信じても馬鹿を見るのはこちらなのだから。だったら初めから信じない。…信じれない。
苛立ちは収まらず、むしろ増えてきて。そして昨日シャマルがオレに巻いた包帯が目に入って―――
「ってお前…なに勝手に包帯解いてんの。手当ての意味ねー。…まぁ、朝になったら換える予定ではあったが普通医者に任せるだろうに…」
「………なんで居んの」
「何でっておま…ひでぇな。せっかく柄にもなく早起きして隼人の為に飯を作ってたと言うのにこの言われよう。割に合わねー」
「飯…?」
「そうだよ。栄養不足どころか失調気味の隼人坊ちゃんの為に!わざわざこのオレが!手料理を馳走しようかと思ったのにその仕打ち。さてはお前鬼だな?」
「……………」
こいつ。朝っぱらから酔ってんのか。
どうやらマジで料理をしていたらしいシャマルには悪いのだが、これがオレの正直な感想だった。
つーかこいつは間違いなく酔っているだろう。そうに違いない。
なのでシャマルが「なににやけてるんだ?」などと戯言を吐こうとも、それらは全て酔っ払いの虚言だから信じる必要性もないのである。うん。まぁ殴ったけど。
今日の天気も昨日と変わらず快晴。しかし昨日のような苛立ちはどこにもなく。やっぱり自分は単純なのかもしれない。と思ったり。
そんなことを思いながら歩いていたら。
「ちょっと」
聞き覚えのある声に足が止まった。首だけ後ろへ動かしてみるとそこには仇敵こと雲雀恭弥その人。
むぅ。いつものオレなら昨日の借りを返そうと真っ向勝負する所だろうが今のオレにはその気が全くなくて。故に普通に返してしまった。何だよ。
「…キミはあの保健医とどんな関係なの?」
「は?シャマル?」
きょとんとした顔をしてしまったかもしれない。それだけその質問はかなり意外性が高かった。いや、まず雲雀がオレに質問してくる所で既に意外なんだが。
しかしオレとシャマル。どんな関係なのかと問われても困る。そんなの考えたこともないし。
…医者と患者。却下。それは昔の話だし、…まぁ、今でも時折そうなるが現時点のオレは違うし。
師匠と弟子。…却下。オレはあんなの師だと認めた覚えはねー。ついでにあいつもそうは思ってねーだろうし。
保護者と子供。まぁ、これが一番近い形なんだろう。それを認めるのは癪だが。…これにもしもオレの希望を入れても良いのなら…
「あー…」
「?」
「シャマルは…なんだ。―――オレの父親、みてーなもんだよ」
ふぃ、っと思わず顔を何かから逸らしてしまう。…なんだか無性に恥ずかしくなってきたな。顔熱いし。
そしたら脳内と目の前にお星さま。それと衝撃。なんですか。またも殴られましたかこのオレは。
「ぃっっってぇぇえええええええ!いきなりなにしやがる!!!」
「ああ、ごめん。なんかむかついたから思わず」
「反省の色が全く見えねぇ!!」
流石のオレもこうまでされては10代目のように温厚にはなれず。いつものように爆撃猛突進するのだった。
結果は撃沈。いい加減この戦歴もどうにかしたい。マジで。
ちなみにこのとき受けた傷をそのままに歩いていたらまたシャマルに見つかって保健室に連行され。
半ば強制的に手当てを受けていたらどこからともなく雲雀がやってきてオレとシャマルをぼこって行った。
本当あいつわけ分かんねー
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何あいつ。どうした?
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