亡き右腕
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ツナは冷や汗を流す。不味い。この状況は不味い。

リボーンは鬼だ。まさしく血も涙もない。言い訳なんて通用しない。

獄寺に如何なる理由があろうとも。リボーンは獄寺を殺すだろう。裏切り者として。


「リボーン、これは…」

「―――リボーンさん」


ツナの声を遮るのは獄寺。その声は無感情。


「オレ…みんなを、殺しました」


告白。それは告発。言い訳の一切ない、ただの事実。


「見れば分かる」


リボーンのその言葉に獄寺は初めて人間らしい表情を浮かべる。…弱々しく、笑ったのだ。

一歩。リボーンは歩く。もう一歩。部屋へ踏み入る。ツナを通り越して。更に一歩。


「早過ぎだ」

「そうですね…すいません」

「ま…お前の方で何か動きがあったと推測するが」

「………」


二人の会話にツナは不審を覚える。一体何の話をしているのか。


「リボーン?何の話…?何か知ってるの?」


リボーンはツナの問い掛けには答えず。教え子の名を呼んだ。ツナ、と。


「…教えたよな。いつ如何なるどんな状況でも常に思い浮かんでおけ、と。その上で対策も考えておけと」


ああ、それは確かに教えられた。ついさっきもそれを思い出したばかりだ。で、それがどういう…ツナがそんな顔をすると。


「だったら、こんな状況も思い浮かばせておくんだったな」


リボーンはまた一歩、歩いて。腕を水平に持ち上げて。

…その腕には、いつの間にか短めの…スプレー缶のようなものが握られていて。

ぱっと、リボーンはその手を離す。缶は重力に従って堕ちていく。また一歩。リボーンは進む。


ツナにはそれまでの過程がやけに遅く感じられた。缶が堕ちていく今この瞬間もまるでスローモーションのように。

ツナは動かない。獄寺も動かない。リボーンだけが一歩一歩ゆっくりと動いている。獄寺の元へと。

そして、缶が。


―――華、蘭と


音を立てて。堕ちて。

ピンが、その時の衝撃でか抜けて。そして白い煙が噴き出して。

ツナは思わず口と鼻を押さえて。その判断は一瞬。

けれどその一瞬で充分だった。何かが割れる音。そして強風が向かい風で吹き込んでくる。更に煙がツナを包む。


「んく…―――ゲホっ」


そして数十秒後。煙が晴れた頃―――

その場には二人はいなかった。

ただただ階上と同じように窓が割られていて。カーテンがはためいていた。