幸せになる方法
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魔物の彼が、神様になるまでの静かな騒ぎがあってから数ヶ月が経過して。
だからといって生活が劇的に変わったわけでもなく。意外と言えば意外なほどに今までと同じ生活を過ごしていた。
…それと言うのも彼が、獄寺くんが今まで通りの生活を望んでいたから。
―――望む、と言うのは少し違うか。獄寺くんは今までの生活に慣れきってしまっていて。そこから出るのに抵抗を感じたからで。
オレとしては一緒に学校に行ったり…同じ家で食事をしたり、寝たいんだけど…獄寺くんは遠慮して…
獄寺くんは別に寝ないでも食べないでも、生きていくのに支障はないらしい。
…でも。お祭りのとき普通に食べてたような―――別に食べれない訳でもないらしい。
どうにか獄寺くんを外に出して、普通の生活をさせたいのだけど獄寺くんってばいつも。
「あー、そのうちな。そのうち」
…なんて。そんな台詞でいつもいつもいつも誤魔化して。
というのも、獄寺くんはどうやら人が怖いらしい。
今まで散々魔物ということで中傷を浴びてきたのだろうからそれも止むを得ないかも知れないけど…
―――でも、オレはもっと獄寺くんと一緒にいたいのに。
そんなことを思いつつ、オレはまた獄寺くんのいる洞窟へと赴く。学校帰りに洞窟に寄るのがオレの日課。
獄寺くんはいつもぼんやりと入り口を見ている。そしてオレの姿を視界に入れるとツナって。笑って出迎えてくれる。
その柔らかい笑みに翻弄されながら。今日こそはと意を決してもう掴みかかるような勢いで獄寺くんに詰め寄る。
「獄寺くん外に行こう!!」
「…前振り無しでいきなりか。今日はまた一段と大胆だなツナ」
苦笑しながら肩に置いたオレの手を降ろして。…あれ?それで終わり?
「獄寺くん!!」
「なんだよ。てかお前学校帰りなのによく疲れないよな…」
「それは獄寺くんと会うのが楽しみだから――じゃなくて!!」
惜しい、と指を鳴らす獄寺くん。もしかしなくても遊ばれている。
「あのねー!獄寺くん日の光も浴びないと不健康だよ!?」
「月光浴なら時々してるぞ」
「太陽の光も浴びないと駄目ー!!」
むきになって大きな声を出してしまうオレを心底可笑しそうに獄寺くんは笑って。そしてはいはいって言って―――立ち上がった。
「え…?」
「ん?どうしたツナ。外に行かないのか?」
戸惑うオレが面白いのか、獄寺くんは笑顔だ。
「え、いや行くけど…一体何の風回し?」
「たまには外にも行くさ。それにこれ以上ツナを怒らせたら暫く来てくれそうにもないしな」
そんな、オレがいくら怒ってもここにこなくなるなんてありえないけど…まぁここは黙っておこう。
「うん、それじゃあ行こうか。獄寺くん」
オレが手を差し出すと、笑って取ってくれる獄寺くん。
たったそれだけのことなのに…どうしようもなく嬉しくて、幸せで。
思わず笑みが零れた。
夕暮れの村外れを二人して歩く。
長い二つの影は繋がっていて。獄寺くんはそれを面白そうに見ている。
そもそも影をこんなに意識して見たことがないなんて笑って言う獄寺くんに切なさを覚えて、オレは獄寺くんに抱きつく。影が一つになる。
「どうしたんだよ、ツナ」
「…なんでもない」
…これから、何度だって見ていこう。
影だって、なんだって。色んなものを見ていこう。
二人でいれば、きっと何でも楽しいから。
「獄寺くん、明日も出掛けるよ。明日は学校が休みだから。朝から」
「いいよ。たまの休日ぐらいお前の好きなことでもしてろ」
「獄寺くんと外に出ることがオレの好きなことなのしたいことなのー!」
だから明日もお出掛けするよー!朝からー!と言いながらオレはむぎゅーっと獄寺くんに抱きつく。
「…はいはい。分かりましたよツナ。明日一日お付き合いさせて頂きますよ」
なんて口では言いつつも、なんだかんだで顔が綻んでいる獄寺くん。
…ね。お願いだから分かって?
キミがそんな顔をするから、オレはキミを外に連れ出すの。
お願いだから自覚して?
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きっと影は別れるまで一つで。
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