幸せになる方法
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「クフフ…でも一応誤解を解いておきますと、別に僕達は彼を殺しに来たとか、そういうわけではないのですよ?」


その直球過ぎる言葉に思わずぎょっとする。…けれど殺しにきたわけでは…ない?


この世代、魔物といえば悪いもの。たとえ殺しても咎める人はおらず都会に行けばそれを生業やただの趣味としている人すらいる…らしいのに。

らしい、というのはただ単にオレが聞いただけの話ということで。実際にそんな人がいるだなんてオレには信じられないだけで。

どうやら大人になればなるほどそうだと思い込むようで。…実際に魔物なんて見たことないくせにそうだと思い込んでいて。

だからてっきりそういう人たちだと思ったのに。…でも。違う?

混乱するオレを差し置いて、来訪者の三人組は立ち上がる。リーダー格っぽい骸は獄寺くんに向き直して。


「それでは…僕達はもう行きます。先程の話の返答はそうですね…では一週間後ということで」

「あ?…おい」


引き止めるような獄寺くんの声にも構わず骸たちはあっという間にこの場を後にしてしまった。

残された獄寺くんはため息を吐いて。残されたオレはそんな獄寺くんを見てて。


「…先程の話…って。なに?」

「ん?あー…っとな。オレに人助けをする気はないかって」

「人助け…?」

「そ」


獄寺くんは短くそう言って。骸たちが去って行った方向を見ている。ただぼんやりと。

なんだか何故だか獄寺くんが遠くへと行っちゃいそうで。オレはきゅっと獄寺くんの服の裾を掴む。


「ツナ…?」

「どこにも…いかないよね?」


獄寺くんはじっとオレの顔を見て。そして笑って。


「…ん。そうだな。オレはここから出るつもりはねぇよ」


その言葉に安心する。よかった、獄寺くんはオレから離れないんだ。


「んな事よりもツナ。お前どうしてこんな所に?」


…ぎくり。


「ぅえ!?え、えっと、えっとね!?」

「確か今日も学校のはずだろツナ…?さてはサボりか?悪い奴だなお前」

「えぇっと…その、たまには獄寺くんと二人っきりでさ!のんびりと過ごしたくってさ!」

「そりゃどーも。でもサボりは頂けねぇなぁ」

「あ、あぅ、でも!最近獄寺くんと二人だけって時間がないじゃない!オレそれが寂しくってさぁ!」

「そーかい。そりゃ悪かったな」


そう言うと獄寺くんはすくっと立ち上がって。オレに手を差し伸ばす。


「んじゃ、たまには二人っきりでどこかに行きますか?」

「え…あ、うん!行く行く!二人で!!」


オレは獄寺くんの手を取って立ち上がる。そうして洞窟を後にして。久々の二人っきりを楽しんだ。

その日から、獄寺くんは積極的になったような気がする。

いつもは外に出たがらないのに、誰に誘われる間もなく外に出てて。さぁ行くかって。

最初は面食らったけど、でもすぐに慣れた。だってこれが本来あるべき姿なんだし。

でもやっぱりというか。獄寺くんは度々オレに持田たちと遊べと言ってくる。


なんでだろう。

オレは獄寺くんさえいればそれで満足なのに。


「そりゃお前。人間は人間とつるんだ方がいいからに決まってるだろ」


ある日思い切って聞いてみれば、返ってきたのはそんな言葉。


「って、獄寺くん。獄寺くんだって人間じゃない」

「悠久の時を生きる人間なんているかよ」

「獄寺くん」

「…あー、分かった悪かった。でもなツナ。それを差し引いてもやっぱりお前はオレに執着しすぎだ。もうちょっと周りにも目を向けろよな」

「そんなこと言われても…」


オレたちの間に微妙な沈黙が広がって。

そしてそれを先に破ったのは…獄寺くんだった。


「そんなに…ショックだったのか?」

「え…?」

「その、笹川京子が死んだのは」


――止まった。

空気が。息が。心が。


「なんで…」


獄寺くんがその名を。その存在を。


「―――…昨日、お前補習だか居残りだかで来るの遅かっただろ?その時に…」


あいつら…

ぎゅっと、拳を握る。今度会ったらぶん殴ってやる。


「笹川京子は事故死だって聞いたぞ」

「そうかも知れないね」


でもねと。オレは獄寺くんに向き直る。


「でも…京子ちゃんはね」


過去の記憶が蘇る。過去の残像がオレの頭を過ぎって。オレを嗤う。


「オレの目の前で、死んだんだよ」


過去がオレを嗤ってる。

オレの無力を嗤ってる。