幸せになる方法
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それはとてもつまらない昔話。

二人の子供が、とても些細なことで喧嘩した。そして片方は森の中へと入り込んで。

危ないから戻ってきてと彼女はやってきた。でもオレは意地を張って。

どちらが悪いわけでもなかったのに。でも今更謝るのは格好悪くて。

暗い暗い森の中。足場は前日からの雨で濡れてて。滑り易くて。


「ツナくーん?ツナくん!どこにいるの?」


彼女は隠れているオレのすぐ傍を通って。

そこは長くて急な坂で。そして――


「きゃ…っ!?」


彼女は泥沼に足を滑らせて。そしてオレの目の前で坂に転がり落ちた。

今でも忘れない。今でも夢に見る。


あの時。オレがつまらないことで口論なんてしなければ。

あの時。オレが隠れるのに森なんて使わなければ。


あの時。


オレが…手を伸ばせていれば。

そうすれば、京子ちゃんは死なないで済んだかもしれないのに。


「ツナ」


獄寺くんがオレを見ている。心配そうに。

ぽろりと熱いものが頬を伝っていて。ああ、オレはまた泣いてるんだと気付く。


「な…んでもないから。大丈夫…だから」


オレは下手くそに笑って。後退りして。その場を後にした。

…今、獄寺くんの傍にいたら。またつまらないことで喧嘩しちゃいそうだったから。

最近の天気は快晴で。獄寺くんは崖から落ちても大丈夫だったけど。

でもそれでも。もうオレはあんな体験は懲り懲りだったから。


ツナが遠ざかる。遠ざかる。

泣かせるつもりは毛頭無かった。けれどオレ以外の世界も見てほしかった。

…だって、オレは…

と、すぐ後ろに気配を感じて振り向くとそこには六日前にオレの所に現れた骸と名乗る男が立っていて。


「クフフフ。日常は楽しかったですか?」

「…ああ。そうだな。悪くなかった」


のちに来る未来視が怖くて。出来る限り避けていたけど。


「それで、明日であの日から一週間です。答えは出てますか?」

「一週間なんて待たなくても、オレの心はとっくに決まってたよ」


そう。だからオレは日常の中に身を置いた。その日常を咬み締めた。最後だからと。


「こんなの、オレが持ってても宝の持ち腐れだ。好きなところに持って行けよ」

「クフフ。ご協力感謝致しますよ。それではまた明日」


そう言って骸はツナと反対の方向へと消えていった。オレはその方を見ながら。


「…悪いな。ツナ。どうか立ち直ってくれよ…?」


出来ればオレなんかのことは忘れて。出来ればオレとの出会いすらなかったことにして。

さよなら、だ。ツナ。


永遠に。


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それは彼なりに考え抜いた、一つの答え。