幸せになる方法
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骸が洞窟の入り口に立っている。オレの目の前に立っている。
その手には禍々しい凶器を持っていて。なのにその顔には優雅とすら言えるような微笑を浮かべて。そして当たり前のように近付いてくる。
オレはと言えば、その光景をぼんやりと見ていて。
その間にも骸は距離を詰めて来る。凶器を構える。オレはその過程をただ見つめる。
そして、骸はやはり笑ったままに凶器を振り上げて。
そうしてオレの身を。貫いた。
辺りに血潮が飛び散った。
その日は。やっぱり快晴でいい天気。
…獄寺くんに、会いに行こうかな…
昨日はあんな別れしちゃったけど、でもオレの頭は冷えたから。
多分獄寺くんも京子ちゃんのこと話題に出さないと思うし…
うん、会いに行こう。でも二日連続で学校サボりなんて怒られるかな?
…でも。それでも。
やっぱり会いに行こう。
街中に出ると、声を掛けられた。
「あれ?あの時のガキじゃん」
聞き覚えのある声。それは確か一週間前のこと。
「…確か…犬とかいう…」
「柿だっているぴょん?」
「………」
そう言われてもう一人の少年も出てきて。オレは思わず後ずさる。
「…なんですか?オレに一体何の用ですか?」
「特に用は…ない」
千種が面倒そうに言ってくる。しかしならば何故こんなとこにいるというのか。
「あの魔物のところに行かないでいいんれすかー?」
「だから獄寺くんは魔物じゃないっつーの!」
しかしそういうオレの顔を、二人は冷ややかに見ている。
「…フーン、獄寺くん、ね」
「?…なんだよ。なにがいけないのさ」
「…苗字には…意味がある」
ぽつりと千種が語りだす。それは、その内容は…
「獄。これは地の底の国のこと。悪鬼が宿り、怨み辛みが這い寄る世界のこと」
「んで、寺は唯一の逃げ道。世の俗世を抜け落ちさせてくれる場所。…そして人に仇名す存在を封じる場所のこと」
「…それが、どういう意味を…って、」
ん…?それって…
「獄寺の苗字は地獄の寺の意。悪鬼を封じる者。転じて…魔物を討つ者」
それは…それは。
「恐らくあの魔物の親父の苗字だぴょん。まったくおかしな話で。討伐士の子供こそが魔物だったなんて」
「だから!獄寺くんは魔物じゃないって…!」
「今はな。でも少し前まで魔物だったんだろ?でもその間もお前はあの魔物のことを獄寺と、討伐士の子と呼んでたんだろ?」
「そうだとしても!なんだってんだよ!」
オレの絶叫が辺りに響く。まるで全てを遮るように。
けれどオレの呼吸が落ち着いた頃、奴らは静かに。そして冷静に―――言葉を紡いだ。
「聞いた話によると…あの子供はあの場所に置いていかれた…」
「でももしかすると、あの魔物は捨てられたのかもしれないぴょん」
置いていかれた。でももしかしたら。捨てていかれた。
自分の親に。生みの親に。育ての親に。―――唯一の頼りに。
地を蹴って。オレは走り出す。
何故だか一刻でも早く、獄寺くんの傍にいたかった。
きっといつもの所に、いつもと変わらない顔で。獄寺くんはそこにいることだろう。…と思ったのに。
―――いつもの所は。いつもの場所ではなかった。
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