幸せになる方法
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蒸し返るような異質の臭い。濡れた空気。立っているのは骸のみ。
獄寺くんは、倒れていた。
その姿は、血に塗れていた。
そして辺りの床も、壁も、そして天井も、更には骸でさえも。
獄寺くんの血で、真っ赤に染まっていた。
「どうして…」
茫然と、そして唖然として。オレは呟く。
目の前に広がる信じられない光景。その間にも赤が広がる。
獄寺くんの身体から、血が流れ出ている。
まるで鉛のように固まってしまった思い足をどうにか動かして。近付く。
…足元はぬかるんでいた。彼の血によって。
それの感触に思わず怯んでしまって。また足が止まる。
と、不意にぴくりと獄寺くんの身体が動く。痙攣…だろうか。けれど続いて呻き声。
…まだ、生きてる。
「おやおや。これだけ血を流してもまだ息があるとは…」
呆れた風な骸の声が背後から聞こえる。振り向いて骸を見ると彼の身体は先程見たときよりも赤が広がっていた。
彼は何枚もの布を手にしていて。その布は例外なく紅く紅く染まっていて。
その赤は間違いなく獄寺くんの血液だろう。その赤が何重も…
…まさか。
あいつは…骸は。
獄寺くんの血液を集めているのか…?
オレの視線に気付いて。骸はこちらを向く。
その表情は怖いぐらいに微笑んでいた。
「邪魔しないで下さいね。…すぐに終わりますから」
片手に紅い布。そして片手に紅い凶器。それを獄寺くんに振り翳す。
「―――駄目!!」
獄寺くんと骸との間に立つ。足元は地でぬかついている。まるで雨の日のように。
「…そこをどいて下さいませんか?」
「…だめ。や…だ」
出てくる声は、情けないことに震えてる。
だけど、どくなんて無理だ。
そもそも恐怖で腰が抜けてもう動けない。身体が動かない。
「…つ、な…?」
背後から声。それは獄寺くんの声。
「な…んで、お前ここに…」
「そんなことどうでもいいから!喋らないで獄寺くん!」
けれど次に出てきた獄寺くんの声に、時と。そして身体が止まる。
「…いいから、退け。ツナ…」
それは自らの身を凶器の前に差し出せという言葉。それは転じて…
「もう…いい。いい、から…」
―――自分を殺せ、という言葉。
「なんで…?どうして?どうしてなの!?」
信じれない。信じられない。聞きたくない。そんなこと。
「もう…な。オレ…生きるの。疲れたんだ」
時を生き。永久に生き。死を知らず生き。そしてそれに疲れ。
「だから…さ。頼むよ」
彼は懇願する。オレに懇願する。
自分を殺せと、懇願する。
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そして。それは。
もしかしたら彼の始めての、"お願い"
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