幸せになる方法
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自身が捨てられたのだと。

そう思い付くのも。受け入れるのも…然程の時間を必要とはしなかった。


だって自分は枷なのだから。

彼らにとって何の意味も持たない、ただの足枷なのだから。


だから、きっと自身は捨てられたのだと自覚するのも簡単だった。

元々自分は望まれて生まれたのではないし。

成らばこそ。自分は思った。


この世界に、オレは不必要なのだと。


誰にも求められず。誰にも愛されず。誰にも知られず。

ただここに有るだけの存在の、なんと不要なものか。

そうしてただただ時を過ごしていたら、やってきた転機。

変わった風向きからやってきた旅人は何か重い、強い目的を持って現れた。

奴らはオレの力を欲してきて。…奴らの話を聞くと、それは人助けに繋がるものらしくて。


「クフフ…貴方が噂の魔物さんですか?」

「…なんだ?てめぇら」

「あれー?骸さん、こいつ魔物じゃなくなってますよ?」

「おやおやそうですね。まぁ支障はないでしょう」

「…?」

「ああ、そう身構えないで下さい。―――永劫の魔物さん、貴方に少々頼みたいことがありまして」

「…そうか。分かったよ」

「いえ、聞きたくない、関わりたくないというそのお気持ちは分かるのですがー…って、え?」

「なに面食らった顔してるんだよ。聞いてやるっつってんだよ」

「え…そんなあっさりとしていいんですか?もう少し人を疑うことも覚えないといけませんよ?」

「オレが言うことを聞かなかったら村人を人質にする、とか言い出しそうだから」

「…魔物とは思えない発言ですね」

「なんとでも言え」

「そうですか…ではですね。貴方にはちょっと人助けの手伝いをして頂きたいのです」

「人助け?オレがか?」

「ええ。と言っても悪の秘密結社に乗り込んで皆殺し―――ということではないのでご心配なく。貴方はこの場から離れずとも大丈夫です」

「ただ一度だけの…提供を願いたい」

「提供?何をだ」


世界に不要なこのオレに、奴らが望むもの。

それは、血液。

永劫の時を生きる魔物の、生き血。

この身を流れる全ての血液が流れ堕ちたそのときこそ。


オレはようやく死ねるんだ。


血が抜かれる度に力が抜ける。

血が集められる度に命が抜ける。

けれどオレはまだ生きてる。

だから早く。もっとオレの血を抜いて。


そうして、オレを殺して。


目の前に立つ骸が笑ったまま近付いてくる。凶器を持って歩いてくる。


「クフフ。動かないで下さいね?間違って当ててしまっては僕としても困ってしまいます」


目的はあくまで彼の血なのですから、と骸は笑ってる。

凶器は真っ直ぐに獄寺くんを捕らえてる。止めないと。怖いけど、身体動かないけどでもそれでも。

なのにそんなオレの決意をやんわりと止めるものがいる。…それは背後からの声。


「ツナ…動かないでくれよな」


その声は死を望む声。生を否定する声。

オレが獄寺くんを助けるのを、望まない声。

その声に、一瞬だけ気を取られたその瞬間。


ザシュ…


風が、頬を横切った。

背後で、何かが痙攣した。


振り向くと、そこには凶器に再度身を貫かれた獄寺くん。


凶器が抜かれる。血が吹き出る。

オレの身体にも、大量の返り血が降り掛かった。

骸は集める。その血を集める。先程まで獄寺くんの体内を巡っていた赤い紅いあかい血液を布に集める。

白かったであろう布切れが一枚。また一枚と染まっていく。赤くなっていく。消える消える。白が消える。


獄寺くんが、消えていく。