幸せになる方法
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「や、やめ、やめろ!やめろよ!」


今更のように我武者羅に骸に飛び掛って止めさせる。けれど骸はオレ如き相手じゃどうしても止められない。


「クフフ。邪魔はしないで頂きたいですね。手元が狂ったら大変です」


獄寺くんはまだ生きてる。オレのすぐ後ろでまだ微かな息をしている。けれどそれも時間の問題。

このままだと、獄寺くんは死ぬ。

そしてその獄寺くんは、その死こそを望んでいる。

目の前には絶望しかない。どうやってそれを抜けたらいい。どうしたらそれから逃げられる。

再三獄寺くんに問い掛ける。どうにかして希望を見つけたくて。


「なんで…なんでなんで!どうして獄寺くんはそんなに死にたいのさ…!」


折角枷が取れたのに!魔物から離脱できたのに!なのにどうして!!

生きるのに疲れた。獄寺くんはそう言った。でも本当にそれだけ?

獄寺くんはオレの方を放心したような目で見つめてきてから。小さな声でこう言った。


「…オレ…な。お前と死に別れるの…が、怖いんだ」


永劫の時を生きた。

ただ生きた。死ねないから生きた。時をただ見つめてた。

そうして過ごしていたオレに、まるで気紛れのように差さされた光。

それはともすると微弱なものだったのかも知れないけど。それでもオレにとっては充分過ぎるほどに明るいもので。

…だから。失ったときのあの耐え難い衝撃もきっと一塩で。


―――もう、いやだった。


あれを味わうのは。

今ですらあのときを思い出しては重く暗く沈んでいるというのに。

これ以上は…耐え切れない。

ツナですら死なれたら…オレはきっと壊れてしまう。


だけど今のオレはただ単にあの鎖が消えただけの存在だから。

…きっと寿命も。魔物の時と同じだから。

いつか必ず死に別れる時が来てしまう。


それが怖かった。ずっと怖かった。


なにをせずとも共にいられる時間が消えていく。そんな毎日が怖くて怖くて。

成らば会わない方がいいのかもと思った。会わずに過ごして。そして別れれば。

だけど弱いオレは突き放すことも出来なくて。結局はツナに甘えて。

そのぬるま湯のような生活の、なんとも苦痛なことか。


朝日が昇る度に、夕日が沈む度に。…一日が過ぎる度に時の速さを疑ってしまう。

一人の時はあんなにも日々は遅いというのに。誰かといると時はまるで放たれた弓矢のよう。

…そんな日常を、あいつらは終わらせてくれると。そう言ったんだ。


オレは、お前よりも先に死ぬことが出来るんだ。


どうしようもないほどの、逃げ。

お前を悲しませることになるって、分かってる。

だって、それはあの時オレが味わったことと同じ思いをするってことだから。


…でも、な。

あの思い。オレはこれ以上はしたくはないんだ。


弱くて、ごめん。

ずるくて、ごめん。

逃げて…ごめん。


ごめんな。


「でも…だからってっ」


ツナが何かを言っている。泣きながら、言っている。


「それでもオレは…!まだ獄寺くんと一緒にいたいんだよ!」


その切ない思いはオレにも分かる。痛いほど。


…オレだって、もっといたかった。

あいつらと…もっといたかった。

けれど人は弱くて。ちょっとよそ見したらすぐに死んでしまって。

この機を逃したら…お前も遠い所に…すぐ行っちまうんだろ…?

だから…だから、ツナ。


「ごめんな」


今度は、ちゃんと言葉にして。ツナに伝えて。

そしてオレは痛む身体を無視して。力を振り絞って骸の武器を手に取って。

驚く顔の骸とツナを放っといて。それを一気に引き込んで。


オレの身体に捻じ込んだ。