幸せになる方法
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苦痛が心身を支配する。血が抜ける。一滴も残らず。一滴も残さず。
目の前が真っ白になって。音が遠のいて。オレは意識を手放した。
ずっと遠くで、ツナがオレを呼ぶ声が聞こえたような気がした。
ごふっと血を吐いて。獄寺くんはぴくりとも動かなくなった。
「ご――」
喉から出る声は力を持たない。
「やれやれ…最後でひやっとしましたがどうにかなりそうですね。――犬。千種」
骸がそう言うと外に待機していたのか、二人の少年が現れる。その顔に表情はない。
「手筈通りに」
骸は短く命令を放つ。その言葉に従い、彼らはこちらへ…獄寺くんへと近付いてくる。
奴らは一体なにをする気なのか。けれどそれはろくでもないことに違いない。そうに決まってる。
「来るな!近付くな!!」
「…邪魔。犬。退かせろ」
「おけー」
犬が近付いて、オレと獄寺くんを引き剥がす。千種が獄寺くんに触れる。
「やめろ、獄寺くんに近付くな、触るな!離れろ!!」
「あー、うっせーぴょん。柿。ぱぱっとやっちゃってー」
「分かった。…骸様。傷の場所が一つ予定位置よりずれていますが」
「ああ、それは彼が自分で刺しちゃったんですよ。直前で僕が方向修正を加えましたがやはり少しずれました」
「分かりました」
「――やめろ!獄寺くんに触るな!離れろ…離れろぉおおおおおお!!」
「クフフ。少し黙って下さいます?千種の手元が狂ったら彼。本当に死にますよ?」
「え…?」
「あいつはまだ死んじゃいねーぴょん。魔物…ああ、今は神だっけ?はそう簡単に死なねーぴょん。…死ねねーぴょん」
「だからって…なんであんなことを…!!」
「彼の本当の願いを叶える為です」
さらりと。骸はそんなことを言う。
獄寺くんの…本当の。願い?
「じゃあ…やっぱり獄寺くんを。殺すの?」
獄寺くんの願い。獄寺くんの望み。それは自らの死。
永久を生きることを強いられ。生に絶望して。日々を緩慢に過ごすだけの苦痛な生活。
それが嫌で。だから死を望んで。
「殺しませんよ?」
けれど骸の口から出るは否定の声。しかしならば。一体どうするつもりなのか。
「貴方も頭が固いですねぇ。よく考えて御覧なさい。そもそもどうして彼は死を望むのですか。生に絶望しているのですか」
それは…近しい人との死に別れが辛いからで…
「ならばそれを、そこをどうにかして差し上げましょう。彼の望みを叶えましょう」
「でも…そんなこと」
出来るのだろうか。そんなこと…本当になせるのだろうか。
「出来ますよ」
骸は無駄に自信たっぷりにそう宣言する。
「信じられませんか?都合のよすぎる話だと疑いますか?襲っておいて何を言うんだと馬鹿にしますか?」
だって、だって。見ず知らずの獄寺くんにそれをする理由が分からない。動機を知らない。
「クフフ。確かにここに来るまでは長旅でした。色んな苦労もありました。そして彼とは初対面ですねぇ」
でもですね、と彼は。骸は続ける。
「それでも僕は、僕たちはそんな信じられなくて都合のいい、陳腐すぎて誰からも馬鹿にされそうな…でも確かに願われている切ない望みを叶えに遠い異国の彼方からやって参りました」
その骸の言葉にオレは黙り込む。
千種は獄寺くんの傷の手当をしていた。
白い包帯を幾重にも幾重にも巻いていて。
…その白は、今度はいつまで経っても赤になることはなかった。
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白の包帯は、いつまでも白いままだった。
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