幸せになる方法
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「ねー、骸さんー、そろそろ種明かししちゃいましょうよー」

「ああ、待って下さい犬。こういうのはタイミングが重要なんです。もう少し間というものをですね…」


あ…?種明かし?何のことだ?

骸は少し唸って…


「えっと、隼人くん。実は僕たちは貴方の力を奪いに来たんです」

「奪いに…?」


強制的な言葉にツナが震える。不安げに骸を見ながらオレをぎゅっと抱き締める。


「ええ。先程申しましたよね。魔物の血には力有り。その力を頂きにやって参りました」

「こいつの血液の一滴だけで軽い怪我や病もたちまち治ってしまうんだぴょん。…理論上では」


なるほど。だから人助け、か。

それに血液だけなら確かにオレはここから離れなくてもいい、と。


「隼人くんがあまりにも協力的だった為成果は予想以上です。ありがとうございます隼人くん。これで大勢の方を救えます」

「そんなことより!」


骸が微笑みながらそう言い終える前にツナが叫ぶ。


「獄寺くんの血が寿命って!それを奪ったって、そんなに血を取って…獄寺くんの寿命、は…あと、どれくらいなんですか…?」


その言葉に勢いがあったのは最初だけ。語尾はほとんど力が入ってなかった。

聞くのが怖いのだろうか。オレの死を知るのが。


「クフフ。永劫の魔物、成り立ての神といえど寿命は有りますよ?ええ。形あるものはいずれ滅びます。それこそ真理ですからね」

「…っ」


ツナが苦しそうに。辛そうに歯を食い縛る。

ツナが聞けないと言うのなら代わりにオレが聞いてやろう。


「…で、いつなんだよ。オレが死ぬのは…」

「獄寺くん…?」

「おやおや隼人くん。あまり無茶してはいけませんて。寿命が縮みますよ?」

「いい、から…聞かせろよ」


たとえそれが明日だろうが、数時間後だろうが。受け入れて見せるから。


「そうですか?えーとですね。かーなーり隼人くんの血を奪っちゃいましたからね。ええ。当初の予定よりもかなり多めにです」


…それは最後、オレが自身を刺したのを責めているのだろうか。

そんなこと言われてももうやってしまったものは仕方ないだろうに。過ぎたことをとやかく言うなよ。


「そうですねー…まぁざっと見積もって…50年といった所でしょうか」

「……」

「……」


はぁ?


「ご、50年…?そんなに?」

「どこがそんなになんですか?いつかは終わりし在る形といえど仮にも神ですよ?半端無く長い寿命がたったの50年!短いですよ?」


いや、そりゃ神レベルから言ったら短いかもしらんが…50年?


「それに今まではこんな暗くて寒い洞窟で過ごしていても平気でしたでしょうけどこれからはそうはいきませんよ?最低寝る時ぐらいは綺麗で温かい毛布に包まって下さいね」

「食事も…三食摂ることだ。今まで通りに何を食せずとも平気…ということにはもう絶対にない」

「食生活次第で寿命も少しは延びるだろから精々頑張るがいいぴょん。…逆もまた然りだから気を付けるぴょん」


ちょっと待て。それって。まるで、まるで…

まるで、人間じゃないか。


「…ふ、くくく…」

「ご、獄寺くん?」


ああ、なんておかしい。笑ってしまう。


「お前ら…さては最初からそのつもりで来やがったな…?」

「はい」


即答とはまた腹の立つ。何が人助けだ。何が力を奪いに来ただ。何が人助けの手伝いをしてほしいだこの大嘘付きめ。


「嘘なんて言ってません。一番重要なことを意図的に黙っていただけです」


似たようなものだよ馬鹿野郎。ああもう騙された。


「クフフ。さて、もう疲れたでしょう。…少し。眠って下さい」


骸はそう言ってオレの目蓋に手を置いて目を閉じさせて。…途端に睡魔が襲ってくる。


「まだ話したいこともあるのですけど…無理は禁物ですよ?どうか暫しの休息を」


なんだかこいつの言葉に従うのが癪で。迫り来る眠気に抗おうとするも少しの効果もなく。

オレの意識は再び闇の底へと沈んでいった。


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けれどその闇は優しくて。怯える必要もないほど心地良くて。