幸せになる方法
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夢を見た。夢を見た。

…遠い遠い。ずっと遠くの昔の夢。

それはオレがこの洞窟に入る前のこと。

それは…オレがまだ。両親と旅をしていたときのこと。


一つの街に長くいたことは無かった。


両親は二人とも多くない魔物の資料を調べ、人に聞き、そしてなんの収穫も得られず街を出る。

オレは宿にずっと、じっとしている。

その生活は窮屈なものだったけど、とりわけ不満はなかった。外の声を聞くのも楽しかった。


外から聞こえる音はいつもどれも楽しそうだった。


それはたとえば喧嘩の騒音とか。品物を値引く声とか。子供達の楽しそうな笑い声とか。

その声を聞くのが。オレの楽しみ。

これが人間。この声が人間。この生活が人間。


オレとは違う。


オレは罪だから。そう教えられてきたから。

オレが宿を出るときは、両親の資料調べが終わった時。

宿から出るときオレは街中を見て歩く。遠くから、ただじっと。


その日は、宿を発ったのが夜で。

その夜は、街は収穫祭で。

篝火を焚いて。みんなで楽しそうに踊って。屋台があって。子供ははしゃいでて。


オレはそのさまを、じっと見ていて。


母がそんなオレを切なそうに見ている。悲しそうに見ている。

父がそんなオレをじっと見ている。面倒臭そうに見ている。


ああ、駄目だ。オレはしっかりしないと。


ただでさえ迷惑を掛けているのだから。オレは罪なのだから。だからしっかりしないと。

オレは祭囃子から目を背けて。先頭を切って歩く。


後ろから母の声が、小さく聞こえた。


ごめんね、ごめんね。

ごめんね。―――隼人。


そこから舞台は暗転して洞窟へ。この洞窟へ。

オレを縛る鎖。オレを置いていく両親。オレはただ黙ってじっとしていて。


―――本当に?


オレはどこか達観した様子で両親を見送る。もう二度と会えないんだろうな、なんて思いながら。


―――それが事実?


それから何もしない日々を過ごして。ただただ過ごして。


…違う。


本当は。本当は…

呼び止めたかった。


泣いて。叫んで。父と母を呼び止めたかった。

置いていかないでと。

いやだいやだと形振り構わず叫んで。こちらに振り向いてほしかった。

待って。行かないで。傍にいて。独りは怖いから。…捨てないで。

必死になって。手を伸ばす。ただの独りの檻の中。鎖の絡む檻の中。

行かないで、行かないで。…待って。捨てないで。こっちを向いて。お願いだから―――


「…でらくん、獄寺くん!」


はっと、目を覚ます。


「つ…な?」