幸せになる方法
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「クフフ。突然の来訪にも関わらず歓迎頂き感謝致しますよ?」
「そうですか」
…なんでツナは骸が来た途端に不機嫌になってるんだ?
「さて。今回僕が来たのはですね、あることの許可を取りにと…あと先日話し損ねたこととお渡ししたいものがあったからです」
「…許可…?それに渡したいものってなんだよ」
「えーと、まずは昨日抜かせて頂いた貴方の血液ですが、あれを各地の人々の為に使っても構いませんか?」
「え…?」
「世の中には助けたくても助けられない人が沢山います。その中の少しだけでも貴方のあの血があれば救えます。…どうですか?」
どうするもこうするも決まってる。
「別に…オレなんかの血で泣く人が少しでも少なくなるってんなら。構わず使えよ」
「ありがとうございます…恩に着ますよ。隼人くん」
「それで、渡したいものって。何だよ」
「んー…その前にですね。隼人くん」
骸はずいっとオレに近付いて。距離を縮めて。
「貴方は…ご両親に捨てられたのですか?」
…っ
心が軋む。胸が痛い。
「…骸さん!」
ツナが骸を責める…がオレはそれを手で制し。
「…まったく、どこから聞いていたんだか…」
オレは頭をがしがしとかきながら。
「…そう、だな」
遠い目をしながら。
「多分、オレは捨てられた」
「どうしてそうだと思いますか?」
「…だってな」
ぽつりぽつりと。小さく語る。
幼き頃からの境遇。両親が味わったであろう苦労。そして洞窟に連れて行かれるまで。
「オレは…いらない子供だから。だから…ここに置いて行かれたんだよ」
そうして。そのまま時過ぎて。
「しかし、果たしてそれは本当にそうでしょうか」
「あ…?」
話を聞き終わった骸がそう切り出してくる。
「子供を愛しないという親が。一体どこにいるというのです」
当然のようにとそう告げてくる骸に、オレは言葉を失って。
どう言えばいいのか分からなくて。戸惑って。
「え…あ、そう…かもな」
「納得出来ませんか?」
「出来ないって言うか…何て言うか…な」
「うーん…まぁ今の今までが今まででしたからね。あ、そうそう。それでお渡ししたいものなんですけど」
そう言って骸が取り出したのは。一冊の…やけに古びた。本。
「これでも保存にはかなり気を配ったんですよ?でも流石に月日は手強くてですね。でも読めると思います」
「…?なんだ?これ」
「貴方以外のものにはなんの意味もないものですよ」
何故だかそう自信たっぷりに宣言する骸に首を傾げながらオレは本を開く。
「え…」
思わず声が漏れる。だってこれは…
「ああ、読めましたか。よかった。貴方が字を習ってなかったらどうしようって、それだけが不安だったんです」
そんな骸の声も耳に入らない。オレはその本に釘付けになる。
「それは貴方のお父様と、そしてお母様の日記です」
言われなくても知っている。この字は…親父と…そしてお袋の文字だった。
そして開いたページは。何の因果かあの日で。…オレをあそこに置いていったあの日で。
そしてそのページの内容は、
…悔いていた。
オレをあそこに置いていったことを。悔いていた内容だった。
本当にあれで正しかったのか。
けれど周りに、オレに何が降りかかるか分からないのも確かで。
だからあそこに置いて行く。
けれど絶対。戻ってくると。
そんな内容…だった。
「うそ…だろ?」
乾いた声。
その間にもオレの目は文章を追い続ける。
オレに巻きついたあの鎖。
あれは…呪いの力を利用して。外敵から身を守るというもので。
…取り分け危害を加える気のないものならば、何の苦もなく近寄れるが。
オレの身を滅ぼそうとするものが来ると、鎖が襲い掛かるというもので。
…そういえば。
オレのところへ来た奴は、どいつもこいつも馬鹿みてえにいい奴で。
たとえあそこが暗い洞窟だったとしても、近くに村がないわけでもなくて。魔物狩りの一人や二人、来てもおかしくはないのに。
なのにそんな奴らが誰も来なかったということは…まさか、あの鎖が?
「分かり…づれえんだよ…くそ親父が…」
「まぁ時として親の行動は子供には分かりづらいですからね。…では。ここで一つ昔話をして差し上げましょう」
「昔…話?」
「ええ。昔話です」
骸はクフフと笑って語りだした。
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