幸せになる方法
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今となってはもう昔のお話です。
ある所に、一つの村がありました。
その村には沢山の書物が有りましたが、村の人々は字が読めず。それの価値がまったく分かっていませんでした。
その村では病が流行っていて。けれど医者もおらず金銭もない村ではどうすることも出来ませんでした。
このままでは滅んでしまうであろう村に、ある時旅を続ける夫婦が訪れました。
二人は幾年にも渡って放浪していて。
夫婦はその村に何か強い思いを抱いて訪れたようですが、病に苦しむ村を前に自分たちの目的を置いて村人の治療に当たってくれました。
永い時を掛けて病は立ち退き、夫婦は目的を果たそうとします。
その村にある書物を見せてほしいと。
村人にとっては不要なもの。そして彼らは救世主。手放して惜しむ必要がどこにありましょう。村人達は喜んで手渡します。
夫婦は礼を言って書物を読み漁ります。書庫に篭って何日も何日も。
それほど書物は膨大で。ある日食事を持って行った一人の村人が問いました。
どうしてそれほどまでに必死なのですか。少し休まれては如何です?
しかしその言の葉に夫婦は口を揃えて言いました。疲れた表情で。けれど笑っていて。
助けたい人がいるのです。その手法がもう少しで見つかりそうなのです。
助けたい人。それは一体誰なのですと村人は更に問いました。その問いに夫婦は今度こそ疲れも感じさせないような笑みを浮かべて。
―――息子です。
………。
それは。確かに昔話。
…昔に、あった話。
そうだとすると彼らは、あの人たちは…
あの後も。宛てのない旅を続けていたということになって。
それからまた時過ぎて。夫婦に異変が訪れました。
それはあの疫病の症状で。夫婦は病に感染していて。
けれどそれもそのはずで。だってあんなにも病に掛かった村人に触れて、それで無事に済むわけがないのです。
村人達は嘆きました。自分たちのせいで恩人の寿命を縮めてしまって。
けれど夫婦は儚げに笑って気にするなと。
今まで随分と無茶をして生きてきたのだから。どちらにしろ早死にしただろうから構うなと。
これで死する事はきっと天命だから。貴方たちは悪くないのだとそう言って。
嗚呼、けれど。けれど。
約束を守れないことだけが残念で。
あの子を開放させて上げられないことが悔いに残って。
可愛い我が子にもう逢えないことが心残りで。
念が残り。悔いが残り。そして心が残って。
それでも子を想い、子を愛す夫婦に。村人は思いました。
せめてこの二人の、切なくも儚い願いを叶えてあげたいと。
それ以外にこの夫婦に出来ることはないから。それ以外に、この夫婦は喜ばないだろうから。
その旨を夫婦に伝えると。夫婦は酷く驚いて。
そんなことしなくともいいと。自分たちに縛られなくともいいのだと。
そう言う夫婦に、けれど村人は引きません。このままでは自分たちは恩知らずになってしまうと。
けれどそれをする為には多量の努力が必要だろうと。そう言われても、引き止められても村人は止まらず。教えを請いました。
夫婦の願いを叶える為にはまず文字を知る必要があって。それから夫婦が今まで築いてきた知識を知る必要があって。
それの教えを請いました。
村人は夫婦に誓います。
どれほどの時を重ねようとも。
たとえいくつもの挫折を味わおうとも。
学んできた知識を子へ孫へ伝え。
知恵を重ね、願いを伝え、決して諦めず。
貴方方の子供を幸せにして差し上げましょう。
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