幸せになる方法
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「なんか…賑やかな連中だったな…」


気が抜けたのか、ぽふっとベッドに横たわりながらそう言えばツナも同意して。


「うん…そうだね。なんか濃い時間だった…」


残ったのは手に余る大きな本が一冊。

…オレの親父と。お袋の日記。

何となしにそれを捲って。時を馳せる。


「…なんて書いてあるの?」

「ん?…ツナ。これ…読めないのか?」


そう言えばツナは罰の悪そうな顔をしながら首を縦に振って。


「うん…ごめん。見たこともない字ばっかり」

「そっか…」


オレがまだ外の世界にいた頃はこの字は普通に世界にあったのに。いつしか消えていたなんて…少し。寂しかった。


「ね。じゃあ読んで聞かせてよ」

「ん?」

「獄寺くんが知ってる文字、オレに教えて?オレも覚えるから。…覚えたいから」


まずはどんな読み方するのか知りたいから。だから読んで聞かせてとツナはせがむ。


「ん…分かった。でもこれから文字を覚えるのは難しいかもしれないぞ?」

「いいの!ね。だから読んでよ!ね、ね?」

「…はいはい」


オレは観念して、日記を読み始める。

最初の一ページ目から。

日記はオレが生まれたその日から付けられていた。


両親は子供が出来たことに親父は酷く驚いて。

でも…それでも愛し。可愛がろうと。思ったらしくて。

日々の連なりは苦労の連続のはずで。それは全て、オレのせいで…

なのに日記にはそんなこと全然書かれてなくて。それどころか今日もなんの手掛かりも見つけられなかったとか。こんな不甲斐ない自分を許してくれとか。…そんなこと、ばかりで。

いつもはあんなにも仏教面だった親父までそう思っていたなんて…そんな思い全然感じさせなかったのに…

日記を読んでる途中オレは何度も泣いてしまって。その度にツナに縋り寄ってしまって。


「獄寺くん…」

「オレ…どうしよう。こんな親不孝者で、オレ…」


そうしているうちに日記の中の両親はオレをあの洞窟に置いて。そのあとの旅に出て。

二人ともずっとオレの安否を気遣っていた。

そして呪いを解く方法を探し出すのにもより一掃の力を入れていて。

…やがて。骸たちの村に辿り…着いて。


そこからは確かに、骸たちが言ってた通りのことだった。

様々な街を巡り。知識を求めるうちに得た医療で村人の病を治して。…病気が移って…

そうして最後のページ。…きっと人生最後の…ページ。


もう声も出ず。耳も聞こえず。目の前も掠れてきて。身体も動かなくて。

きっともう、これ以上オレの身体は持たないだろう。もう隼人の事を思うことも出来なくて。

ああ、すまない。すまない。お前を幸せにしてやりたかった。


ごめんなさいごめんなさい隼人。貴方を助けて上げられなくて。私たちの力が及ばなくて。

もう祈ることしか出来ない。もう祈ることすら出来ない。貴方の呪いが解けるその日が来るのを望むことも出来ない。

でも…それでも。願わせて。

貴方が人に成れる日を。


お前が生まれた日を思い出す。

オレの家系の決まりによって、オレの名の一部を告ぐ予定だったお前。

だけどオレはそれを破って。一つの願掛けをしてお前に名前を付けた。

お前が一刻でも早く。


早く、速く。――隼く。

人に、成れますようにと。願いを込めて。


嗚呼、隼人。

どうか。いつの日か。お願いだから幸せに。

死したあとでも魂は。

そのことだけを、願っています――