枷せられた道
1ページ/全17ページ
その子はずっとそこにいた。
オレが日中、中庭を走り回っているときも。
オレが夜中、勉強をさせられているときも。
その子はずっと、そこにいた。
あの子はどうしてあんなところにいるの?
オレ、あの子と遊びたいよ。
あの子はなんでいつもあそこから出て来ないの?
オレ、あの子と友達になりたいな。
オレが周りの大人にそう問い掛けても。大人は不思議なことを言うばかり。
あの子?あの子とは一体誰の事だ?
あそこ?あそこはただの廃墟だよ。
友達?貴方にそんな物は必要無い。
ところで――あの子というのは、一体何の事だ?
オレには分からなかった。
大人が嘘を付いているのか。それともあの子はオレにしか見えない存在なのか。
だからオレは、夜中にこっそりとそこに行った。あの子を確かめるために。
いつもあの子がいるそこは、たしかに大人たちが言ってるみたいに廃墟にも見えた。
あの子はいつもその廃墟の中から、窓越しに外の世界を見つめていた。
あの子はそれ以外の事はしなかった。していなかった。オレにはそれが不思議でならなかった。
だって、外の世界は楽しいから。その事をオレは知っているから。
庭を思いっきり駆け巡ぐって。疲れたら噴水で水浴びして。眠くなったら木陰で昼寝して。
…でも。それをするのはいつも一人だけでだったから。それが少しだけ不満だった。
だからあの子と一緒に遊びたいと思った。そしたらきっと、オレもあの子も一日が楽しくなると思ったから。
…あの子はこんな夜中でもその廃墟の中から外を見ていて。空を見ていて。
オレも夜空を見上げる。月が大きくて綺麗だった。
そのまま惚けていたくもなったけど。それではオレの目的が果たせないから。
足元に転がっている小さな石を拾い上げて。オレはその子に気付いてもらえるようそれを窓に向かって投げた。
コン、と軽い音がして。その子はびっくりして。オレの方を見た。
…きっと床が高いのだろう、オレとその子の高さの距離は五メートルぐらいあった。
だからオレはその子を見上げる。だからその子はオレを見下げる。心なしか驚いた顔で。
「こんばんは」
「……」
オレは夜の挨拶する。その子はまだ驚いている。
「今日はとてもいい月夜だね」
「……」
その子は何も言わない。…何を言えば良いのか分からない、そんな感じだった。
「いつもそこから、外を見ているよね。ね、なんで出て来ないの?」
「……」
「……」
そして訪れるは、静寂。
ただ、その子が何かを言おうとしてくれてるのが分かったから。オレは焦らずに待った。
やがてその子は、静かに静かに口を開いて。言の葉を漏らしてくれた。
「…オレに…関わらない方が、良い」
でもそれは、オレの質問の答えではなかった。
「オレは―…幽霊、だから…」
「幽霊?」
…はて。
この子は死んでしまった子なのだろうか。ここから見えるのはその子の胴から上までだけど、もしかしたらこの子には足はないのだろうか。
でも幽霊というのは、たしか昼間は出てこないのではなかっただろうか。オレはこの子をいつも見ていた。それこそ昼も夜も。
オレがそんな事を考えている間も。その子は言葉を漏らす。
「オレに、関わると…きっと、ロクな事にならない。だから…」
その子の口調はとてもゆっくりで。何故か違和感を感じさせた。なんだろう。何故だろう。
「…でもオレは…キミと、友達になりたいな」
オレが素直にそうだと言っても。その子は顔を曇らせるだけだった。
そうしているうちに、オレを探しにか無数のライトがオレのいた建物からやってきた。
「…あちゃー…オレ、もう行かないと。…もう少しキミと話をしたかったんだけど――」
…あ。そうだオレ、大事な事をまだ言ってない。
次
戻