枷せられた道
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「――って、ちょっと待ってよ!たしか獄寺家の実験は数年前に終わったんじゃなかったの!?」
そのはずだ。この前教わったことだから少しだけ覚えてるけど、たしかそんな内容だったはず。
「…まぁな。確かにその通りだ。ただ、それでもあいつは実験体なんだよ。…最後のな」
「――最後の…?」
「そうだ。そしてあいつは近い未来、ひでぇ実験を受ける。…それこそ、目も当てられないようなきつい奴をだ」
ふぅ、と。シャマルは煙草に火を点けて。吸う。煙が辺りを漂う。
「だから、忘れろ。あいつの事は」
ばたんとシャマルの言葉を遮るように、否定するように扉を思いっ切り閉めて。オレは走る。走る走る走る。あの子の元へ。
急いで急いで急いで。一刻も早くと。あの子の元へと――
あの人はいなかった。どこにも。
いつも、この時間帯は木陰で昼寝をしていただろうか。…いつの間にか、覚えてしまっていた。
てっきりオレがここから移されるのかと思ったが、その様子は全然無い。ならばあの人が移されたのだろうか…?
奴らはそれほどまでに、オレに触れたくないのか。
…ま、良いけどな。別に。どうでも。
それならそれで、関係無い。オレは今まで通りの事をするだけだ。
窓越しに外の世界を見る。それだけ。
――たったそれだけが、オレに許された…そして残された、自由。
空を見る。雲が流れていた。
視界を少し落とす。木々が揺らめいていた。きっと風が強いのだろう。
オレは視界を更に落とす。
――あの人が、走ってきていた。
…オレの、元へと。
――大人たちが廃墟だと言った、その場所は、オレにはまた、別の物に見えた。
…自分の子供を実験体に、薬を中心とした兵器を次々と開発している――
あそこは。あの子のいるあの場所は。廃墟なんかじゃない。
あそこは――牢獄だ。
あの子を閉じ込めておく為の、ただそれだけの為にあつらえられた…牢獄だ。
見張りの目を掻い潜りながら、その牢獄まで赴くと。
あの子はいつもの通りに、当たり前のように。そこにいた。
…昨日と同じく、やっぱり少し驚いた顔で。
そんなにオレが来ると、変なのかなぁ…
「や、やぁ…また来たよー…」
全力疾走で来たからか、オレの息は切れ切れ。…少し格好悪いかな。
「なんで…」
聞こえてきた小さな小さな呟きは。驚きを含んだもの。何でと言われても、そんなの一つしかない。
「また来るって。言ったじゃない」
それともまた夜に来るのかなって思っていたのかな。それはそれで結構ロマンがあるかもね。夜しか逢えないなんて。
「――…です」
「――え?」
伏せ目がちな顔で、辛そうな顔で。さっきよりも更に小さな声。オレは思わず聞き返す。
「…もう、ここに来ては…駄目、です」
それは、またも否定の言葉だった。
「オレ…みたいな、奴のとこに…来たら。駄目です」
周りの人間に否定されるのなら。いくらでも耐えられた。でも…
「オレの事は…忘れて下さい。オレなんて、最初からいなかったって。思って下さい」
他でもないこの子自身に否定されたら…オレは一体どうすれば良いのだろうか。
「なんで……」
思わず聞き返してしまう。皮肉にも、オレがここに来たとき、あの子が言ったのとまったく同じ台詞を放って。
「人が、オレなんかに…関わっては、いけませんから…」
獄寺家の最後の実験体だというこの子。この子だって人の子なのに。どうして、どうして…!
「でも…だからって…!」
「――分かって下さい。…貴方とオレは、住む世界が違うのですから。…ボンゴレ10代目」
「…時期候補、だよ」
ばれてたオレの正体に嘆く暇もない。オレは"ボンゴレ10代目"であるが故に、本当に欲しいものはたったの一つも手に入らないのだろうか。
「…じゃあ、さ」
「はい?」
今思えば、オレはきっと自棄になっていたのだろう。こんな命を下すなんて。
―――こんなのでオレの欲しいものは決して手にはいらないと。知っていたくせに。
「"10代目の命令"だよ。―――オレと、友達になって?」
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