枷せられた道
4ページ/全17ページ


「――って、ちょっと待ってよ!たしか獄寺家の実験は数年前に終わったんじゃなかったの!?」

そのはずだ。この前教わったことだから少しだけ覚えてるけど、たしかそんな内容だったはず。

「…まぁな。確かにその通りだ。ただ、それでもあいつは実験体なんだよ。…最後のな」

「――最後の…?」

「そうだ。そしてあいつは近い未来、ひでぇ実験を受ける。…それこそ、目も当てられないようなきつい奴をだ」

ふぅ、と。シャマルは煙草に火を点けて。吸う。煙が辺りを漂う。

「だから、忘れろ。あいつの事は」

ばたんとシャマルの言葉を遮るように、否定するように扉を思いっ切り閉めて。オレは走る。走る走る走る。あの子の元へ。

急いで急いで急いで。一刻も早くと。あの子の元へと――


あの人はいなかった。どこにも。

いつも、この時間帯は木陰で昼寝をしていただろうか。…いつの間にか、覚えてしまっていた。

てっきりオレがここから移されるのかと思ったが、その様子は全然無い。ならばあの人が移されたのだろうか…?

奴らはそれほどまでに、オレに触れたくないのか。

…ま、良いけどな。別に。どうでも。

それならそれで、関係無い。オレは今まで通りの事をするだけだ。

窓越しに外の世界を見る。それだけ。

――たったそれだけが、オレに許された…そして残された、自由。

空を見る。雲が流れていた。

視界を少し落とす。木々が揺らめいていた。きっと風が強いのだろう。

オレは視界を更に落とす。


――あの人が、走ってきていた。


…オレの、元へと。


――大人たちが廃墟だと言った、その場所は、オレにはまた、別の物に見えた。


…自分の子供を実験体に、薬を中心とした兵器を次々と開発している――


あそこは。あの子のいるあの場所は。廃墟なんかじゃない。

あそこは――牢獄だ。

あの子を閉じ込めておく為の、ただそれだけの為にあつらえられた…牢獄だ。

見張りの目を掻い潜りながら、その牢獄まで赴くと。

あの子はいつもの通りに、当たり前のように。そこにいた。

…昨日と同じく、やっぱり少し驚いた顔で。

そんなにオレが来ると、変なのかなぁ…

「や、やぁ…また来たよー…」

全力疾走で来たからか、オレの息は切れ切れ。…少し格好悪いかな。

「なんで…」

聞こえてきた小さな小さな呟きは。驚きを含んだもの。何でと言われても、そんなの一つしかない。

「また来るって。言ったじゃない」

それともまた夜に来るのかなって思っていたのかな。それはそれで結構ロマンがあるかもね。夜しか逢えないなんて。

「――…です」

「――え?」

伏せ目がちな顔で、辛そうな顔で。さっきよりも更に小さな声。オレは思わず聞き返す。

「…もう、ここに来ては…駄目、です」

それは、またも否定の言葉だった。

「オレ…みたいな、奴のとこに…来たら。駄目です」

周りの人間に否定されるのなら。いくらでも耐えられた。でも…

「オレの事は…忘れて下さい。オレなんて、最初からいなかったって。思って下さい」

他でもないこの子自身に否定されたら…オレは一体どうすれば良いのだろうか。

「なんで……」

思わず聞き返してしまう。皮肉にも、オレがここに来たとき、あの子が言ったのとまったく同じ台詞を放って。

「人が、オレなんかに…関わっては、いけませんから…」

獄寺家の最後の実験体だというこの子。この子だって人の子なのに。どうして、どうして…!

「でも…だからって…!」

「――分かって下さい。…貴方とオレは、住む世界が違うのですから。…ボンゴレ10代目」

「…時期候補、だよ」

ばれてたオレの正体に嘆く暇もない。オレは"ボンゴレ10代目"であるが故に、本当に欲しいものはたったの一つも手に入らないのだろうか。

「…じゃあ、さ」

「はい?」

今思えば、オレはきっと自棄になっていたのだろう。こんな命を下すなんて。

―――こんなのでオレの欲しいものは決して手にはいらないと。知っていたくせに。

「"10代目の命令"だよ。―――オレと、友達になって?」