枷せられた道
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――そんなこんなで、いきなり始まったオレと獄寺くんの友達ごっこ遊び。

…オレとしては、ごっこだなんて思ってはいないけど。でも獄寺くんはそうなのだろう。きっと。

友達といっても、獄寺くんはそこから出てこれないらしいから。窓越しに会話をするしかないんだけど。

それに全く不満がないわけじゃ、もちろんなかった。

出来ることなら、獄寺くんと外でも遊びたかった。…その手に、触れてみたかった。

…でも。


――あ、オレと獄寺くんって、同い年なんだね。

そのようですね。…誕生日から考えると、オレの方が一ヶ月ばかり年上みたいですけど。

年上かぁ…じゃあ獄寺くんは、一ヶ月だけオレのお兄さんなんだね。

…お兄さん…

ん?獄寺くんどうしたの?

い、いいえっ なんでもないです。10代目。


オレは今の今まで独りだったから。だから相手のいる今、ものすごく楽しかった。

オレは毎日獄寺くんのいるあそこまで行って。

獄寺くんは毎日そこでオレを待っててくれていて。

…いや、いつも通りだろうと言われればその通りなんだけどさ。…気分的にね。

会話って言っても、毎回オレが何か言うのに、獄寺くんが受け応えるだけ。なものだったんだけど。

オレはそれでも、楽しかった。

…オレは、だけど。

獄寺くんは、どうなのだろうか。

獄寺くんはオレの、…"ボンゴレ10代目"の命令を受けて、オレとごっこ遊びをしているだけ…なのだから。もしかしたら楽しくないかもしれない。

…いや、たぶん、楽しくないだろう。

"ボンゴレ10代目"の命令だから、嫌な顔一つせずに付き合ってくれてるけど。その内心は…


――獄寺くんと話をしていくうち、オレは獄寺くんに興味を持っていった。

獄寺くんは、オレがここに来るよりも随分前からあそこにいたらしい。

獄寺家の話になってしまうから、オレはその話題に触れるのを避けていた。きっと獄寺くんは嫌がるから。

…でも…ある日。


――そういえば、どうして10代目はオレの名前を知り得たのですか?


一回だけ。獄寺くんの方から話しかけてきたことがあった。


オレの名前を知っている奴が、いたのですか?


そうか。獄寺くんは獄寺家からここまで連れてこられたんだ――…実験を、させられるために。

だから、獄寺くんのことを、名を知っている人がここにいるなんて思わなかったのだろう。


うん。…あのね。ここの医師の…シャマルって人に、聞いたの。

シャマル?シャマルってあのシャマルですか?いっつもよれた白衣を着ている…

え――…あ、うん…たぶん。

……。


――そっか…あいつが…


幼稚だと。笑いたければ笑うが良い。

オレ自身でさえ、幼稚だと。そう思っているのだから。

……あの、獄寺くんの。今まで見たこともないような顔を…

あの獄寺くんの安心しきったような顔を、この場にいないあいつが、その名前を出されただけで呼んでしまうなんて。

そしてその事実に、その結果に、…シャマルに。思わず嫉妬してしまったなんて。


「――Dr.シャマル。…獄寺家の事について、教えて」

「んだよやぶからぼうに…お前この前せっせと復習してただろうが。あれ以上の知識は必要ねぇよ」

「…じゃあ、獄寺くんのことについて。教えて」

「あ…隼人?」

――隼人。獄寺くんの、名前。

オレが呼んでみたら、いきなり泣き出してしまった――

「…そう。その隼人くんの事だよ。Dr.シャマル。獄寺くんとどんな関係なのさ、いつからの付き合いなのさ!」

「いつってお前…あいつが生まれて来た時からだが?あいつを取り上げたのはオレだからな」

生まれたときからの…思った以上に深い関係に頭を抱えたくなる。

――って…生まれたときから?

「ちょっと待ってよ!」

「あん?」

「シャマルは、獄寺くんが…その、実験に使われるって知っていて、それでも取り上げたわけ!?」

「そーだよ。それが仕事だからな」

「な…!」

ああもう、訳が分からない!何で獄寺くんはこんな奴にあんな顔を…!!

「…なぁ、ボンゴレ坊主」

「何!!」

「隼人は…元気に、してるのか…?」

…はぁ…?

「そんなの知らないよ!オレといる時は控えめに笑いながら話すだけだからね!!」

もうこんな所にいられないとばかりに、オレは思いっ切り扉を閉めて。医務室を後にした。

その背後でシャマルの声が聞こえたような気がしたけど。そんなものは一切無視した。


「…そーか。あいつ…まだ話せるばかりか、笑う事でさえ…」