枷せられた道
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一度視線を落としたあと。また視線を上げれhたもんだ」

シャマルはやれやれと大げさに溜め息吐いてば。そこで見えた獄寺くんは――泣いていた。

なんで?どうして?シャマルは一体なにをしたの?シャマルは獄寺くんを――泣かせたの?

ふつふつと怒りともいえる感情が湧いてくる。シャマル。あの野郎。

「――シャマル!なに獄寺くんを泣かせてるの!!」

気が付いたときには、叫んでた。

オレのその叫びに、シャマルも獄寺くんも驚いたようで。そしてこっちを見た。

「ボンゴレ坊主か…全く、良いタイミングで僚う言って、その場を後にして。

「…あ、10代目。今日は遅かったですね」

そして獄寺くんはまるで自分が泣いてる事なんて取るに足らない事のように。いつものようにオレに応えてくる。

「獄寺くん、シャマルに何言われたの」

「え?」

「何で泣いてるのってことだよ!シャマルに何かひどい事言われたからなんでしょ!」

「え、いえ…シャマルは何も、悪くはないのですけど…」

獄寺くんは困ったように笑いながら、シャマルを庇う。

どうして。シャマルは獄寺くんがどんな目に遭うか分かって、その上で獄寺くんを取り上げたのに。獄寺くんに降りかかること全てを、シャマルは黙認したというのに!!

なのになんで!!

「どうしてそれほどまでに、獄寺くんはシャマルを慕うのさ!!」

「じゅ、10代目?いきなりどうしたのですか?落ち着いて下さい」

落ち着けと。獄寺くんは無茶を言う。落ち着ける訳がない。そんなこと、出来る訳がない。

これ以上ここにいると何を言ってしまうか分からなかったオレは、思わずそこから駆け出してしまった。


10代目がまたオレを怒鳴って…またも数日。

10代目は、あれからオレの所へは来なかった。

…ああ、そうか。

オレと10代目の友達"ごっこ"は…終わったのか。

ならばもう10代目はここには来ないだろう。それは少し…残念だった。

…駄目だ。

残念だなんて。思ってはいけない。

オレは"10代目の気紛れの命令"で、仕方なく友達ごっこをしていたのだ。

…そうではくては、いけないのだ。

オレみたいな実験体が…そんな感情抱いては、いけないのだから。


10代目が来るのを心待ちにしていただなんて、嘘。

10代目に語りかけられるのが嬉しかったなんて、嘘。

10代目と、もっとずっと。一緒にいたいって思ってたなんて…嘘。


そうでなくては、いけないのだから。

そうやって自分をずっと騙そうとしていると、…なんとも珍しい。オレがここに入れられた以来ではないだろうか。…人が、来た。

ここまで入って来たということは、…オレの実験の用意が出来たのだろう。

なんというタイミング。ある意味、ピッタリといえばピッタリなのだが。

奴らはオレを廊下へ行くようにと誘導する。廊下へ行けば一階へ。一階へ行けば、地下へ。

その間のオレは、あいつらは。何も言わない。何も言葉を発しない。

その必要が、意味がないことを。互いに知っているから。

あいつらはオレを決して触らない。ある一定の距離以上近づいてこない。

別に構わない。オレは、あいつらにとってはヒトではないのだから。

オレはこれから死に行くもの。オレは誰の目にも映らない幽霊。

これからオレが受ける実験は。どんなものかは詳しくは知らないけど。でも、きっと。生き耐えることは出来ない程のもの。

でもそれはこの世界の住人に役立つものだと教わった。オレの死で。オレの受ける実験で。助かる命があるのだと。

…オレは、それで失われる命もあるのだと。知っていたけど。

ああ、でも。


こんばんは。


あの、少し頼りないように思える小さなボスの。…時期ボンゴレ10代目の。


今日はとてもいい月夜だね。


…あの人の為に、オレの命が失われるのなら…それも、また。…良いかも知れない。


オレと、友達になって?


貴方の命でしたら喜んで。貴方の為でしたらいくらでも。オレは命を懸けましょう。


――獄寺くん。


…10代目。

オレは、貴方に逢えて…良かったです。

そう胸の内で呟いて。オレは実験の準備が調っているであろう地下へ地下へと進んで行った。

――自分の、足で。