Roman - 彼との絆 -
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「リボーンさん!」


見つけた。少し離れたところの壁に寄り掛かるように、その小さな身体は鎮座していた。

動かない。彼は動かない。いつもは開いているはずの瞳だって閉じられている。


―――嫌な予感がする。

心臓がバクバクと鳴っている。もしも、ああ、もしも―――


死んでいたら?


その疑問を晴らすには、呼び掛ければいい。その身に触れればいい。それだけでいい。

それすらをも躊躇してしまうのは、果たして自分が弱いからか?

恐る恐る…腫れ物を触るかのように手を伸ばした。そして…


「リボーン…さん…?」


静かに呼び掛けると、


「あ…」


リボーンさんの小さな指が、触れたオレの手を…握り返してきた。



―――生きている。



その事実にほっと胸を撫で下ろした。気が抜けて、ついでに腰も抜けてしまった。その場にへたりこんでしまう。


「よか…よかったです、リボーンさん…」

「…何が、どうよかったんだ?」


気付けばリボーンさんはいつの間にか目を開けていて。オレを見上げていた。


「貴方が無事で、よかったと言ってるんです」

「オレが無事?手酷くやられたがな」


確かにリボーンさんが誰かに救援を求めるなんて、通常じゃありえない出来事だ。


「やれやれだ…そうだ獄寺。ここに来る途中、猫を見かけなかったか?黒いのだ」

「猫…ですか?いいえ。猫どころか誰にも擦れ違いませんでしたけど…猫が一体どうしたんですか?」

「…盗られた」

「はい?」

「あの猫、オレが動けないのをいい事におしゃぶりを盗りやがった」


忌々しい、とばかりにリボーンさんは舌打ちを一つ。


「そうだ。獄寺、その辺にコロネロが転がってるだろ。あいつのおしゃぶりはどうなってる?」


その言葉に思わず、身体が止まった。

リボーンさんは…コロネロが死んでることは…知ってるのだろうか?


「ああ、知ってる。オレの目の前で殺されたからな」


意を決して聞いてみたら、かなりあっさりに返答が返って来た。


「ったく…オレは待てと言ったのに、あの馬鹿は…」

「リボーンさん…」

「いいんだ。あいつはいつか馬鹿な死に方するだろうって確信すら持ってたからな。で、あいつのおしゃぶりはあるか?」

「あ…少し待って下さい」


言って、オレはコロネロの所まで戻る。

冷たく、硬く、小さな身体。

胸元に手をやるが…それらしき感触はなかった。


「ありません、リボーンさん」

「そうか…クソ、してやられたか…首謀者は誰だ…?」

「―――ひとまず、一度帰りましょう。…コロネロも…埋葬してやらないと…」

「…そうだな」


リボーンさんはオレに後を任せた。と言ってまた目を閉じる。

…この人が目を瞑るなんて…多少はオレを信用してくれたのだろうか。


―――これがもしも…たとえばボンゴレで。自室で…ふと横を見るとリボーンさんが目を瞑っていて寝ていて…とかだったら、オレは本当に嬉しかっただろう。

有り得もしないifを思い、思わず苦笑する。


…だけど、そんな日を実は夢見ていたなんて言ったら。この人はやっぱり笑うんだろうか?

なんだ、お前意外に夢見がちなんだな。なんて少し馬鹿にしたような口調で。


オレはリボーンさんを抱きかかえる。リボーンさんは抵抗せず、あっさりとオレの胸の内に入る。

…夢を見るのはいい加減自制しないと…今はそれどころじゃない。

そうだと、分かっているのだけれど…

すいません、リボーンさん。これで最後ですから。


これで最後なので、あなたの顔をよく見せて下さい。


本当に眠っているのか、まるで無抵抗なリボーンさんはその姿のままに幼く見えた。

…大好きです。リボーンさん。

あなたの為なら、オレはきっと。どんな事にだって耐えてみせます。


―――嗚呼身体が痛い…