Roman - 緋色の約束 -
25ページ/全55ページ


回る廻る風車。辺りには綺麗な花が咲いている。

踊る躍る村人たち。その身から綺麗な赤を散らせてる。

むかしむかし、あるところに小さな村がありました。

小さな村には小さな教会、小さな公園。小さな市場にそして―――小さな小さな学校がありました。


小さな学校に通う子供たち。


子供たちにものを教えるのはひとりの青年でした。

小さな学校に先生はその青年だけ。大変でしたが、彼は毎日を充実させていました。


だって先生になるのは、彼の夢だったのですから。


小さな村の小さな学校。

そこに通う子供たち。

世界は変わらず退屈で穏やかな日常。


「あ。いいところに通り掛かったな。少し手伝ってくれ」

「えー…僕はこれから遊びに……」

「まぁ、そう言うな」

「…仕方ないですねぇ、先生は」


毎日が平和でした。

変わらぬ日々でした。

ずっとこんな毎日が続くのだと、誰もが思っていました。


なのに―――


ある日突然、その全てが壊れました。

土足で野蛮に踏み入ってきた黒服の男たち。

小さな村に大きな火が放たれ、あっという間に全てが燃え尽きてしまいます。


誰にも、何が起こったのかなんて分かりませんでした。

何も分からないままにひとつ。またひとつ命が潰えていきます。

あの小さな学校の先生も、何がどうなっているのかなんて出来ませんでした。

先生に分かったことはただひとつ。


この場にいては危ないということだけです。


彼は大切なものを守ろうと、子供たちを連れて外へ出ました。

表は火を持ち、銃を放つたくさんの男たちがいたので必死に闇に隠れながら。

泣き続ける子供たちを宥めながら。あるいは叱咤しながら。彼は森の中へと逃げました。

怯え、泣き疲れた子供たち。彼の疲労も限界に来ており、彼らはひとつに纏まりながら休みます。


だけれど、それではいけなかったのです。


彼らは、どれだけ疲れていようが逃げなければならなかった。

その選択が出来なかったことを、誰も責めることは出来ないだろうけど。


彼は足音に目を覚ましました。いつしか眠っていたようです。

足音の先には村を襲った男が数人。それぞれが銃を握ってます。


彼はふらつく足で立ち上がりました。

先生である彼の役目はただひとつ。子供たちを守ることです。

そんな彼を見て、ひとりの男が感心した風に口を開きました。


「あの状況下、よくここまで動けたもんだ。しかもガキ共を庇いながら。…もしひとりだけだったなら逃げれたんじゃねぇか?」


…それは、先生も一瞬頭を過ぎった事柄でした。

自分だけなら、逃れられるかも知れない。でもその選択は、彼が先生である以上決して選ぶことの出来ないものでした。

だから彼は男たちにこう言いました。


「オレなら好きにしろ。だが、こいつらは見逃してくれ」


その発言に更に男は感心した風に口を開きます。


「気に入った!」


彼は男たちに束縛され、連れて行かれます。

子供たちが泣きながら彼の…青年の、先生の名前を叫びました。


「リボーン先生!!」


子供たちにリボーンと呼ばれた青年は笑って…子供たちひとりひとりの名前を言いました。

それはまるで自分に言い聞かせるように。


「必ず戻って来るから、それまで待ってろ」


そう言って、小さな村の先生をしていた青年は男たちに連れられて行きました。


酷な事をした、と彼は思います。

だって横切った村には、もう焼け落ちた建物と死体しか残ってなかったのですから。


皆が生まれてきた教会。

皆と遊んだ公園。

皆が少ない小遣いで菓子を買っていた市場。


そして…皆と毎日笑いながら日々を過ごした、学校。


その全てが…今や面影もなくなっていました。

でも、彼にはどうしてもあの子供たちが殺されるのを見過ごせなかった。

これは自分のエゴだろうか。自分を押し付け、苦難の道を歩めなどと。


彼は、子供たちに言った通りにここに戻ることを目標にしました。彼らを守りに、また戻ってくると。

ここに戻ってきたら、自分は彼らの為の力になろうと。

だけど…


結局、彼の目標は達せられませんでした。