Roman - 恋人からの返答 -
37ページ/全55ページ
それは夏のことでした。澄み渡る青空が綺麗でした。ただ蝉の鳴き声が少しうるさかった。
空を見る、なんて余裕は昔はなかったものだから、少し贅沢をしている気分になりました。
油断してました。こう見えて普段は周りを警戒してるんですよ?あの時は本当に油断していただけなんです。本当です。
なに見てるんだ?
不意に聞こえてきた声に、思いっきり身体がビクつきましたね。あれはかなり恥ずかしかったです。
どうしたんだ、と怪訝顔なあなたになんでもありません!!!と思いっきり背筋を伸ばして答えました。
だけどあなたは、オレが空を見ていたのだとすぐに気付いて。オレと同じ感想を漏らしてくれましたね。
綺麗だな、と。
あなたと同じことを思えた。それだけのことが…どれだけ嬉しかったか。あなたに分かりますか?
あなたが綺麗だといったあの空。オレはきっと忘れません。
目が見えなくなっても、思い出そうとすれば綺麗に脳裏にあの景色が再生されるんですよ?
あなたと過ごした時間は、決して長いとは言えませんでした。
あなたもオレも、第一は10代目でしたから。
それに、あなたは…あの頃から既に、痛みに苦しんでいましたから。
アルコバレーノのことについては知っていたけど、何も出来ない自分は歯痒かった。
大丈夫ですか?と、ある日我慢が出来なくなって思わず言ってしまいました。
あなたは何が、とは聞かずただ一言「心配ない」って笑って言いましたね。
そのときのあなたの顔も、よく覚えてます。
次
前
戻