Roman - 恋人からの返答 -
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それは夏のことでした。澄み渡る青空が綺麗でした。ただ蝉の鳴き声が少しうるさかった。

空を見る、なんて余裕は昔はなかったものだから、少し贅沢をしている気分になりました。

油断してました。こう見えて普段は周りを警戒してるんですよ?あの時は本当に油断していただけなんです。本当です。


なに見てるんだ?


不意に聞こえてきた声に、思いっきり身体がビクつきましたね。あれはかなり恥ずかしかったです。

どうしたんだ、と怪訝顔なあなたになんでもありません!!!と思いっきり背筋を伸ばして答えました。

だけどあなたは、オレが空を見ていたのだとすぐに気付いて。オレと同じ感想を漏らしてくれましたね。


綺麗だな、と。


あなたと同じことを思えた。それだけのことが…どれだけ嬉しかったか。あなたに分かりますか?

あなたが綺麗だといったあの空。オレはきっと忘れません。

目が見えなくなっても、思い出そうとすれば綺麗に脳裏にあの景色が再生されるんですよ?


あなたと過ごした時間は、決して長いとは言えませんでした。

あなたもオレも、第一は10代目でしたから。

それに、あなたは…あの頃から既に、痛みに苦しんでいましたから。


アルコバレーノのことについては知っていたけど、何も出来ない自分は歯痒かった。

大丈夫ですか?と、ある日我慢が出来なくなって思わず言ってしまいました。

あなたは何が、とは聞かずただ一言「心配ない」って笑って言いましたね。

そのときのあなたの顔も、よく覚えてます。