Roman - 最後の生と死の物語 -
54ページ/全55ページ


その目に光はないのに。まるで見えているかのようにしっかりとした足取りでリボーンへと近付く。

そして、獄寺は腕をリボーンへと伸ばした。それはリボーンが今まで幾度も見てきた光景。

自身へと伸びてくる腕。それはいつもならこの後どうなる?


―――悪意と殺意を持ってして自分の首を絞めに掛かる。

…自分の愛する人に。愛しい人に自分はこれから……


「止めろ…来るな!


思わずリボーンは銃を撃っていた。

撃たれた弾は獄寺の伸ばす腕を貫き胸を裂く。皮膚の裂けたそこから赤い花が咲き乱れた。

獄寺は一瞬きょとんとした顔をして…笑った。だらけの身体で。胸から大量のを出しながら。


「…酷いですねリボーンさん。オレを撃つなんて」


獄寺はまたリボーンへと距離を詰めて来る。笑いながら。血を吐きながら。


「オレが…あなたに何か酷いことをするとでも思ってるんですか? あなたのことが大好きな、このオレが」


オレはこんなにもあなたのことをあいしているのに。

あなたはオレのことをあいしてはいないんですね。


そう言って、獄寺は笑う。


オレはあなたがうまれたこのせかいをあいしているけど。

あなたはくるしみしかないこのせかいがきらいなんですね。


それはとても哀しいです。と獄寺は言う。笑いながら。

血に濡れた獄寺の腕が、手がリボーンへと伸びる。


リボーンの首を絞めようと、伸びてくる。

リボーンの身体は動かない。

亡者共の腕に掴まれて。かつての教え子たちに捕まって。



「止めろ…獄寺」



そう言う声にも、力はなく。

獄寺の腕がリボーンの首に掛かる。


触れる感触も獄寺の裂けた皮膚から零れる血の臭いも今までの幻覚とは違い本当にリアルで。

徐々に首を絞めていく力も、現実のもののように思えて。


「…リボーンさん」


聞こえる声も、本人のもののように思えて。

違うと分かってる。獄寺なわけがないと。

これは幻覚だと、分かっているのに―――


「オレにあなたのお手伝いをさせて下さい」


首が絞まる。


「リボーンさん。さっき死のうとしてましたよね?」


首が絞まる。


「オレにあなたのお手伝いをさせて下さい」


首が絞まる。


「リボーンさん。オレにあなたを殺させて下さい」


首が絞まる。


「これがオレに出来る、あなたへの最初で最後のお手伝いです」


首が。


「生きてても辛いのでしょう?」


首が。


「死んだ方がましなのでしょう?」


首が。


「自分に生きる資格などないと思ってらっしゃるのでしょう?」



首が―――



「でしたら。さようなら。愛しいリボーンさん」



―――以前にも、似たようなことがあったなとリボーンはふと思った。

そのときは、一体どうやって悪夢から覚めたのか…考えても、もう思い出せない。


…自分は、こうやって死ぬために今まで生きてきたのだろうか。


その疑問に答える声はなく。そのままリボーンの意識が閉じていく。

視界の最後に見えたのは、愛しい人の血に濡れた笑顔―――――