病弱羊の見る夢は
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しまったと思いつつ、今更切ることも出来ない。恐る恐る携帯を耳に当てる。
『comeva』生きてたか
またもや綺麗な発音。イタリア語。けれど聞いたことのある声。そういえばこいつもイタリアから来たんだっけと、ツナはふと思い出した。
「日本語で言ってよ、リボーン」
『なんだツナか』
スピーカーの向こうから聞こえるヒットマンの声。驚きは微塵も感じられない。
「獄寺くん怪我してるみたいなんだけど、どうしたのさ」
『なんだ獄寺の服を脱がせたのか?相手が動けないのをいいことに、やらしいな』
「汗拭いてるだけだっての!!」
思わずツナは叫んでしまう。隣で獄寺が呻いて慌てて声を潜めた。スピーカーの向こうからリボーンの噛み殺した笑い声が聞こえた。
「……で、何があったの?」
『ああ、少しばかり抗争に巻き込まれただけだ。気にすんな』
「こ…っ」
抗争。
「だ、大丈夫なの?抗争って……」
『そうだな、今回のは少し手強かったみたいだが…元々調子悪かったのに更に気候の変化がきつかったらしいな。いらぬ怪我をした』
ツナは改めて獄寺の身体を見る。腕と腹にまだ新しい包帯。それに細かい傷がいくつもあった。
「………っ……」
痛々しい。
そう思ったら、獄寺は身体を丸めた。見れば少し鳥肌が立っている。
「freddo…」寒い…
『何やってんだツナ。お前獄寺の容態を悪化させるつもりか?早く獄寺の身体を拭いて着替えさせて毛布を掛けてやれ』
電話越しのくせに、どうしてそんなに詳しく状況が分かるのだろうか。
ツナは分かってるよと言って電話を切った。獄寺に用事があるのならまた掛けてくるだろう。
ツナは気を取り直して獄寺の身体をタオルで清めていく。大体拭き終わると服は脱がせたままで毛布を掛ける。辺りを見回す。
「…と、あった」
お目当ての物を見つける。それは赤十字のマークの入った救急箱。
(えーっと…、こういう状態のときに必要な物は……)
救急箱の中にはきちんと整頓された…というより、まったく使われた形跡のない医療品。ツナは中から包帯と化膿止め、絆創膏とガーゼ、それに消毒液を取り出す。
(リボーンに習っといてよかった…)
いくら断ってもあの小さなヒットマンはツナにいろんなことを教えていく。手当てもその中の一つだった。
ツナはまた獄寺の毛布を取り無造作に巻かれた包帯を丁寧に取り除いていく。
(……よかった、それほど酷い怪我じゃない)
ツナは現れた傷口に化膿止めを塗り、真新しい包帯を巻いていく。それが終わると今度は小さな傷に消毒液を付けて絆創膏やガーゼを張っていく。
傷の手当が済んだのを確認すると、ツナはタンスから持ってきたTシャツを獄寺に着せる。そしてまた毛布を掛けた。
(とりあえず一段落……)
ふぅ、とツナはため息を一つ吐く。獄寺の額に手を当ててみる。まだ熱い。
タオルを洗って絞り獄寺の額に乗せる。―――と、獄寺の手がまたゆっくりと伸びてきて、今度はツナの手をじかに掴んだ。
ツナはそれを拒むことはぜずそのまま握り返してやる。獄寺が安心したように笑った。
それだけで幸せになれる反面、けれど獄寺が笑っているのは自分ではない、他の誰かだと思うと…胸の中に黒い感情が芽生えてくる。
ツナは握られていない方の手で獄寺の髪を梳いてやる。たったそれだけのことなのに、獄寺の顔は更に幸せそうに綻んだ。
(……いくら弱まっているとはいえ、獄寺くんにこんな顔をさせるなんて…)
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