病弱羊の見る夢は
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「………」


ツナの沈黙をどう受け取ったのか、獄寺は、


「…あっめ、迷惑ですよね、やっぱり……はは、わ、忘れてください。今のは、ちょっと調子が悪くて、変なこと言っちゃっただけですから」

「全然、迷惑なんかじゃないよ」


ツナは外そうとした獄寺の手のひらを思いっきり握り返して、


「わ…っじゅ、10代目…っ!?」


くせっけのあるその髪を撫でた。


「嫌なら、止めるけど?」


その言葉に獄寺は少し黙って。


「嫌じゃ、ないです……」


ツナに身を預ける。


「安心、します」


まるで無防備な獄寺の姿。見てると守ってあげたくなる。


「ずっと、夢を見てました」


ぽつりと、獄寺は語る。


「オレは苦しんでるんです。そして助けを求めてるんです」


その目はまだ夢の中にいるように少し空ろで。


「ずっと助けを呼んでたら、来てくれたんです。会いたかった人が」


それは、ずっとイタリア語で言っていた彼だろうか。

ツナの心にまた黒い感情が立ち込めた。


「10代目」


いきなり呼ばれてツナは驚く。


「え?」

「10代目が、来てくれたんです。オレを助けてくれたんです」

「…え?じゃあ……」


あれはすべて自分のことだったのか。

ずっとイタリア語で、意味はよく分からなかったけど、あれは自分を呼んでいたのか。

かっと、ツナは自分の体温が上昇するのを感じた。

なんだ。

オレは。

自分に嫉妬していたのか……

あまりにも幼稚な自分に、ツナは自嘲の笑みすら浮かんだ。


「10代目…?」


その笑みに気付いてか、それとも撫でる手が止まったからか、獄寺は心配そうにツナを見上げる。


「……なんでもない」


ツナは撫でる手を再開させて、そうだと気付いてその手を獄寺の額に移動させる。まだ熱いが、昨日と比べたら遥かに下がっていた。


「…うん。熱も大分下がったね。でもまだ寝てたほうがいいかも」


ツナは額に当てた手をまた頭に戻して髪を撫で始める。

そうしていると、獄寺はまた眠くなってきたのか、目蓋を少しずつ降ろしていった。

ツナは獄寺をベッドに寝かす。獄寺はその目蓋を完全に閉じる前に何かを言った。それはイタリア語で、しかも早口だったけど…


「分かってるよ、獄寺くん」


そう言うツナの声が聞こえたのか、獄寺は笑って―――そのまま眠りに落ちていった。

時刻はまだ朝。平日だけど今日は休むことを決意するツナ。

そういえば昨日の昼から何も食べていないことを思い出す。腹は確かに空腹を訴えているけど、それは無視。


ここから離れるわけにはいかない。


獄寺が寝てしまう前に言ったことは、実際はツナはよく分かってないのだが…

…寝る前に、少しだけ握られたその手の意味は分かった。


「どこにも行かないから。ずっと傍にいるから……」


ツナがそう小さく呟いて獄寺の頭を撫でる。

それだけで幸せそうに笑う獄寺。それを自分が与えているのだと分かってツナ自身も幸せになれた。

幸せを噛み締めながら、ツナは一つ決意する。

今度、リボーンにイタリア語を教えてもらおう。

もう、こんな要らぬ誤解をしたくないから。

ツナはそう誓って、そして獄寺の髪を一撫でした。

獄寺の顔が、また綻んだ。


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いつもより幼く感じるキミを、守りたいと思った。